おまけep134 この人生ゲーム。強く生き抜いてみせる。

 妙はまだ営業部に転属されたばかりだ。良く知っている相手と言えば、高校からの親友であるカオルくらいだ。

 会社のほとんどが年輩で、やましい気持ちで優しく面倒を見ようとしてくる他の社員はすでに数人いた。


(気が乗らない、、だけど、自分の歓迎会だ。断りようがない、、。)

 やっと気持ちを切り替えて、ほとんどカオルのそばにいようと思った、割とカオルを頼りにしていた妙。歓迎会の催される居酒屋の座席に着くと、まずはビールで乾杯。そして、立って挨拶をするように促された。


「えっと。改めまして、事務方から営業に配属されました。皆さんとは顔は知っているものの、ちゃんとお話ししたこともなかったです。これからよろしくお願いします。」ペコリ


「かわいい~♡」

「ついに我が部に天使がっ!」

 やんややんやと盛り上がる一同。ため息交じりで挨拶を終えて座ろうとしたその時だった。


(ん?…え?あ、あそこにいるのは、、戸田さん?え、もしかしてっ!戸田さんと一緒に居るあの、、帽子を被っているなぜかしゃべっていないのに騒がしいオーラっ!!み、みちるっ!!)


 妙が戸田に目線をやると、「ごめんね?止められなかったの」という戸田のテレパシーを感じた。


(ふぅ。。そうか、、来てしまったようだな。ヤンデレめ、、。そんなところも好きだ。愛してる!だがしかしっ!今日はちょっと危ない気がする!ヤキモチが淀んだ感じで膨らみそうな気配がする!!)


「カオル、、聞いて?」

「ん、なに?妙。」

「みちるが浮気調査に来てる…。」

「え、ここに?」キョロキョロ

「しっ!13時の方角だ。敵はこちらに背を向けている。」

「わかった。で、どうするの?」

「早めに帰らせるから、それまで他の社員から私を守って!」

「了解。女の嫉妬はこわいからね。」

「戸田さんをトイレに誘導して伝えて欲しい。どうぞ好きなだけみちるに奢ってもらって食べてください。一時間後に、みちるを早く帰らなきゃいけないようにメッセージを送って誘導しますと。」

「わかった。あの戸田さんって人はフリー?」

「いや。彼氏がいる。」

「わかった。我慢する!」


 こうして、妙は戸田に目配せすると、カオルがトイレに行き、あとを追うように戸田もトイレに行った。妙からの伝言を聞くと、戸田は1時間以内に美味しいご飯を食べようとメニューを見て好き勝手に注文した。


 なぜか戸田の連絡先を聞いて戻ってきたカオルは、妙に近づきさわろうとする社員を片っ端から撃退した。

「妙ちゃん、隣に座っていいかしら?」

「ダメです!妙は私の隣じゃないと寂しがります!」

「妙ちゃん、良かったら今度二人で、」

「あああ!それもダメです!妙は仕事が終わったらいつも私と二人きりがいいんです!」


 守り方が極端だったカオル。社内にまた、妙カオルカップルの噂が尾ひれをつけて拡散されるきっかけとなった。

 しかし、そのおかげで、たまにちらっと後ろを振り返るみちるが見る限り、妙は常にカオルの隣でちびちびとお酒を飲んでいるだけのように見えた。


 1時間が経過した頃、、妙が戸田を見ると、すでにご飯をいっぱい食べて満足そうな顔をしていた。よし、今だ。妙はスマホを取り出し、みちるに愛のメッセージを送った。


『みちるちゃん、今飲み会だよ。早くみちるに会いたいよ。やっぱりみちるの作ったお味噌汁とお漬物とおにぎりが食べたいよ。もうすぐ帰るね?帰ったらぎゅーってしてね?』


 策士であった。そのメッセージはすぐにみちるによって開封された。みちるの心臓はとくんっと小さく跳ね上がり、勢いよくみちるは後ろを振り返った。妙はつまらなそうに一人で飲んでいる風を装った。


「た、妙ちゃんっ!!あんなにつまらなそうにっ!!早く私に会いたいのね?みちるのご飯が食べたいのね!?」


 完璧なまでの計算通りであった。

「戸田ちゃん!そろそろ帰るわよ!」

「あ、はーい。ごちそうさまでしたー。もういいんですか?」

「愛する人を信じて、米を炊き帰りを待つ。それが妻の役目。急ぐわよ!」

「さすがっ!妻の鏡ですね!」


 こうして、監視員は去って行った。

「ふぅ。やっと帰った。これでひやひやせずに飲める。カオル、ありがと。」

「妙も大変だね。でも絹子の方がもっと猟奇的だけど。」

「帰ったらご飯が用意されてるから、、唐揚げと春巻きだけ食べようっと♪」


 そして1時間後。会がお開きになると、妙は2次会を断ってみちるの待つ家に帰った。


「ただいまー!みちりゅー!」

「はっ!!あなたっ!お帰りなさい!さぁ、この胸に飛び込んできて!」

「はーい。さみしかったー。」

「ああん、、こわかったね?さみしかったね?みちるのおにぎり食べようね?」

「うん。みちるはなにしてたの?」

「え、ただ、あなたのことだけを考えていたわ。」

「そっか。戸田さんとご飯でも食べてくれば良かったのに。」

「え?そうね、、あ、ところで歓迎会は楽しかった?」

「うーん。普通だよ。あとさ、聞いて聞いて?」

「なになに?なんでもみちるにお話しして?」


「あのね、居酒屋で歓迎会だったんだけど、カオルは気づいてないんだけど、、絹子が別のテーブルで監視してたの。笑」


「え!うそっ!気づかなかっt、、あ、えっと、そうなんだ??」

「うん。トイレに行くときにコソッと絹子に話しかけたら、浮気しないか見張ってるだけだから内緒にしてくれって。これで貸しが1つ出来るから言わなかったー!」

「そっかぁ♡カオルさんって、ちょっと信用なさそうだもんね!妙ちゃんと違って!」

「まぁねー。私はみちる一筋だから、みちるに深ーく信用されてるけどねぇ~!!」

「そ、そうね!さぁ、ご飯を召し上がれ。。」



 今日はあちこちにちょっと意地悪した策士、妙だった。

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