おまけep18 疑えない女

 ある日の朝。目覚ましが鳴る前に日差しで目が覚めた美しい女性。

 その隣ですやすやとまだ寝ているまた別の美しさのある女性。


 妙はゆっくりと半身を起こして、隣に眠るみちるを起こさないようにと自分だけうわがけをめくった。


(おはよう)


 パクパクと口だけを動かし、愛しい彼女の寝顔をしばらく見つめてから、朝ご飯の支度をしようと考えていたときだった。


「ん。んぅ、、ダメよ、たーくん。。」


 え? たーくん??

 男?


 慈愛と恍惚に充ちた妙の顔が、すん。とした瞬間である。


 しばらくして、妙が二人分の朝食を作っていると、ふにゃふにゃと口で言いながらみちるが起き出してこちらへと歩いてきた。


「はい♡ どうぞ♡」


 いつもどおり、こうやって自分の唇を差し出すみちる。そう。いつもどおりなら妙は「わーい」と喜んで吸い込まれるように唇を合わせていただろう。


「ねぇ。たーくんってだれ?」


 ぶっすぅぅぅーーーとふてくされた顔をしてみちるに問いただした。それを見て、なんでどこからそんな話になったのかと、目をぱちくりとしてみちるは言った。


「え、実家のわんちゃん。私が唯一愛せる男の子。なんで知ってるの?」


「あ、ああ。そうなんだ?」


 訳を話して、溺の愛で頭をわしゃわしゃされて可愛がられる妙だった。


「ほーら、おいでー。みちるの溺の愛だよ~!」


 たーくんとおなじ扱いなのだろう。。


 また別のある日、就寝前に二人、リビングでお互いにくつろいでいると、みちるのスマートフォンに着信が入った。


 みちるは俊敏に立ち上がり、キッチンの方へ移動すると着信を取って、


「ちょ、ちょっと、妙ちゃんがいるからこの時間はやめてってば。うん、明日ね。こっちからするから!うん、バイバイ。ふぅ。。」


 みちるがちらっと妙の方を向くと、目を見開いて驚いている妙。


「なに、今の? 明らかに怪しいんだけど・・・?」


「いあ、いやぁ?別にぃ?」


「いや。今のは無理があるよ。どういうこと?私に聞かれたくない話をする相手って誰?」


「えー?言わなきゃダメ?」


「ダメじゃないけど、言わなかったら信頼関係が壊れるかもよ?」


「いやぁー!やだやだ。着信画面見てぇ!」


 慌ててスマートフォンの着信履歴を妙に見せるみちる。画面を見ると、一昨日、昨日、今日、全部【おかあさん】であった。


「お母さんに妙ちゃんの写真送ったりのろけたりしてたの。ごめん。」


「は?そ、そうなんだ。。でもなんで隠そうとしたの?」


「うー、お母さん、すっかり妙ちゃんのファンになっちゃってさ。。会いたいって、話してみたいってうるさいのよ。。」


「あ、ああ。そうなんだ。。へぇ。。」


「今度、、会ってくれる??」


「あ、はい。うん。喜んで。」


 うーん。。


「みちるってさぁ」


「な、なに?」


「私のこと大好きだよねぇ。」


「押忍。それはまちがいなく。」


「疑うところないんだよなー。笑」

「いつも、好きでいてくれてありがと。」


「きゃー!今の話、お母さんにしたら悶えるよ!?」


「それは言わないで。」


「じゃ、私が今悶えるっ!!♡」

「愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる・・・あしいてる・・・あ、ゲシュタルト!」


「崩壊してるんじゃないよ。笑」


 


 みちるのドーパミンの滝は枯れない。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る