第29話 勝者なし
「奴隷紋・・・・・・そういうことか」
ジェンドゥの下腹部に刻まれた奴隷紋に、特に驚くことは無かった。ただジェンドゥの事情にようやく理解ができた納得と、和解に向けた道筋が見えた安堵があった。
「それを解除できれば俺たちに戦う必要は無いんだろ? ジェンドゥ」
「ごほ・・・・・・できれば、な。知ってるぞ、協会にいる奴隷達の解呪、まだできてないんだろ」
「それはそうだけど、これからは俺も協力する。そうすればすぐにでも」
「トロいこと言ってんなよ」
ジェンドゥはふらりと立ち上がると、ぼろぼろの体でナイフを構えた。
「ボクは逆らえば、今この瞬間にも、殺されるかもしれないんだよ。この奴隷紋がある限り、そんな事は許されな」
「ごちゃごちゃうるさいぞ!」
「え」
急に大きな声を出したせいかジェンドゥが目を丸くしている。だがいい加減俺もフラストレーションが溜まっているんだ。
「いいからお前はどうしたいんだ! 今俺と戦って殺されたいのか、それとも奴隷から解放されて自由に生きたいのか!」
「・・・・・・そりゃ自由に、なりたいよ。でも」
「でもじゃない! いつからお前はそんなウジウジした奴になったんだ。助けられたいならちゃんと言え!」
「・・・・・・」
ナイフを下ろし俯くジェンドゥ。
ジェンドゥを助けるには、俺が助けようとするだけではダメだ。ジェンドゥ自身も助けられたいと思っていなければならない。
「ボクは・・・・・・人類の裏切り者だ。体は魔物だし、人には言えないような事も何度もしてきた」
「そうか」
「アンタに近づいたのも下心あってのことだし、暗殺だってしかけた」
「そうだな」
「今だってアンタを罠にかけて殺そうとしてた。そんなボクにも救われる権利があるってのかよ!」
「そうだ!!!!」
つかつかと近づき、ジェンドゥの顔をあげさせた。今にも消え入りそうに瞳が揺れている。
「俺を見ろジェンドゥ。俺がお前に何かされて傷ついているように見えるか!? 気にしているように見えるか!?」
「・・・・・・みえない」
「だろ? だったら何を気に病む必要があるんだ」
「・・・・・・」
ジェンドゥの心は既にこちらに傾いている。だがあと一歩が足りない。なにか、ないか。ジェンドゥの心を動かせる何か。
「そうだ、そういえばデートの後何でも言う事聞くって言ったよな。その権利を今使おう。ほら、言ってみ? 言ってみ?」
「・・・・・・どうして」
「ん?」
ジェンドゥのか細い声を聞き逃すまいと耳を澄ます。
「どうしてそこまでするんだよ。こんな裏切り者に」
「どうしてってそりゃあ──」
──好きだからだよ。
そうポロリと言いそうになった自分に驚き、慌てて言葉を飲み込む。え、こんな殺伐とした所で告白すんの? それはちょっとムードに欠けるというか。というか恥ずかしいし。
赤面しながら視線をさ迷わせているとジェンドゥも察したのか顔が赤くなった。
「お、おい。自分はあんなに言わせようとしてたのにアンタは言わないつもりかよ」
「わ、わかったよ。言うよ。言ったらお前も言えよ」
大きく深呼吸する。
心臓が跳ね回っている。告白なんてするのもされるのも経験がない。まさかこんなシチュエーションでする事になるとは。ええい、覚悟を決めろ。
「ジェンドゥ、俺はお前のことが」
その瞬間敵意レーダーに強烈な反応がかかった。咄嗟にジェンドゥをだき抱えて離れる。直後に先程までいた場所が爆発し、粉塵が舞い上がる。
「つまらん茶番だ」
落ちてくる瓦礫を払いながら爆心地を注視する。霧と塵の奥に巨大なシルエットが見えた。大木のような四肢、猪を思わせる野性的な頭部、山すら砕けそうな程の巨大な戦鎚。
「ネトルーガ・・・・・・」
「ふん」
ネトルーガが戦鎚を振るい塵を払うと、その姿があらわになった。以前見た時と何ら変わりない姿だ。だがその表情は苦々しく歪んでいる。
「ここまでして傷一つつけられないとはな。やはり貴様の強さは異常だ」
ネトルーガは戦鎚を肩に担ぎ、突進の構えをとった。
「だが貴様を倒さねば侵略はなせない。魔王様のためにも、ここで討たせてもらうぞ」
「言いたいことはそれだけか」
「なに?」
本当に生きてたのかとか、魔王についてとか、いろいろと聞きたい事はあるが。そんな事は今はどうでもいい。俺の心は今、激しい怒りで満ちていた。
「てめぇ! 俺が今まさに一世一代の告白するところだっただろうが! せっかく勇気出したのに台無しじゃねぇか!」
両者の間に沈黙が訪れる。
ネトルーガは一瞬驚いたように目を見張ったが、すぐに呆れたようにため息を吐いた。
「くだらん。戦場で色ボケるのが悪い」
「コイツ! オークの風上にもおけねぇヤツだ。それによぉ、俺のジェンドゥちゃんに奴隷紋いれたのテメェらだろ? どう落とし前つけてくれんだ?」
「
「カッチーン。はい切れた。そもそもお前の名前が気に食わんわ。俺NTRとかBSSとか嫌いなんだよね。お前楽に死ねると思うなよ。奴隷紋とか魔王とか、知ってる事全部洗いざらい吐いてもらうからな」
ネトルーガと睨み合う中、くいと服をひかれる。
「お、おい」
「ちょっと待ってろジェンドゥ。話はコイツをシバいてからだ。今回は暴れずにジッとしてろよ」
「・・・・・・うん」
俺がしっかりとジェンドゥを抱き上げると、ジェンドゥの腕がそっと遠慮がちに体に回された。それを見たネトルーガが嘲笑うように鼻を鳴らす。
「愚かな勇者だ。ソレは我の遣わした工作員だぞ。なぜ救おうとする」
「うるせぇな。俺がそうしたいからだ」
「そうか。では『目を塞げ』」
「なっ」
急に視界が暗く閉ざされる。同時に巨大な気配が迫ってくるのがわかった。
「【大紅蓮】!」
咄嗟に巨大な火球を放ちつつ跳躍をする。その直後、足下で火球を突き破って暴風が吹き荒れるのを感じた。
少し肝を冷やしつつ俺の視界を塞ぐ手を剥がすと、泣きそうなジェンドゥの声が聞こえた。
「ご、ごめん。ボクの意思じゃ」
「わかってるよ」
ネトルーガの命令に奴隷であるジェンドゥは逆らえない。ネトルーガめ、コスい真似を。イラつきを込めて眼下を睨むと大岩を振り上げるネトルーガと目が合った。
「『暴れろ』」
「くっ」
ジタバタと手足を振り回すジェンドゥを落とさないようにキツく抱きしめる。同時に大砲のように大岩が放たれた。
「【煌々弓】」
俺の放った光線により大岩は粉砕され、そのままの勢いでネトルーガに飛んでいく。
「チッ」
光線はネトルーガの左肩に当たり、左腕をもぎ取った。ネトルーガが一瞬怯んだ隙に着地して体勢を整える。
「ふん。化け物め貴様はどうやったら殺せるのだ?」
「その言葉そっくりお返しするぞ」
ネトルーガの全身に走る紋様が青く輝くと、肩の肉が盛り上がり腕が生え始める。ほんの数秒で左腕は元に戻ってしまった。
なんとも厄介な再生能力だ。上半身吹き飛んでおいて復活しただけの事はある。
とはいえ殺す事は可能だろう。さすがに全身の細胞を跡形もなく消し飛ばせば復活はできまい。だがコイツはできれば生け捕りにしたい。問題はその方法だ。
生憎俺は眠らせたり麻痺らせたりと行動不能にするような能力は持っていない。拘束しようにもこの膂力を封じれるような手段はないし、弱らせようにもこの回復力に効果があるかどうか。
まあやるだけやってみるか。
「【煌々連弓】」
「くっ」
無数の光線を弾幕のように放つ。ネトルーガは防具や戦鎚で防ぐが、圧倒的物量の前に少しずつその体を削られていく。だが同時に紋様が蒼く輝き、削れた傍から治ってしまう。
これじゃ意味無いな。ならこれならどうだ。
「【亜空断】」
鋭く手刀を振るい、不可視の斬撃を放つ。斬撃は戦鎚ごとネトルーガの腹部を切り裂き、そのまま背後の大岩にも深々と切り込みを入れた。ってありゃ、貫通しちゃったか。
「ゴフッ」
ずるりとネトルーガの体が2つに分かれ、上半身がぼとりと落ちる。だが俺は知っているぞ。コイツがこの程度で死なないことは。
「・・・・・・あれ?」
だがしばらく待ってもネトルーガは起き上がらなかった。上半身はピクリとも動かず、下半身は直立不動のまま時折血を吹き出させている。
あれ? 死んじゃった?
恐る恐る近づいてつま先でネトルーガの顔面を小突く。ぐったりと力無く揺れるその体に生気は感じない。
もしかしてダメージがデカいと直ぐには復活できないのか? という事はこれは仮死状態か? どうしよ、この状態で連行するべき? でも前回も似たような状態から復活したんだよな。どうすっかな?
そうやってぐるぐる考えていると
「お、おい! 後ろ!」
ジェンドゥの声と同時に背後から強烈な敵意を感じ、咄嗟に前に飛ぶ。そのすぐ後ろを掠めるように鉄塊が通り過ぎる。
「そっちから復活すんのかよ!」
切られてなお直立不動だった下半身。そこからネトルーガの上半身が生えていた。しかも一緒に両断されたはずの戦鎚も新品同様に直っている。あれもスキルや魔法で作られたモノなんだろう。
「【煌々弓】」
「【我が覇道──」
牽制がてら放った光線は、一際強く輝く蒼い紋様に弾かれた。そうだった。コイツにはこれがあった。
「──阻むもの無し】!」
蒼い流星と化したネトルーガが瓦礫を粉砕しながら迫る。試しに何度か魔法を放つが、いずれも手応えなく弾かれた。
おそらく効果中無敵なんだろう。さすがに俺もこれは避けるしかない。それに突進直後の攻撃は普通の攻撃とは一線を画す威力があった。避け方をミスるとジェンドゥにダメージがいくだろう。ネトルーガとの読み合いだな。
「・・・・・・【瞬歩】」
ギリギリまで引き付け、瞬間移動で避ける。狙い通りネトルーガのすぐ背後に出た。よし、成功・・・・・・いや待てよ。
振り返るとネトルーガは大地に向けて戦鎚を振り下ろしていた。マズイ。
落雷のような轟音とともに戦鎚が大地を砕く。衝撃が大地を捲り上げ、内臓をひっくり返すような衝撃波が突き抜けていった。
「ちっ! おい、大丈夫かジェンドゥ!」
咄嗟に爆心地から離れたが衝撃波まで防ぐ余裕はなかった。目を回すジェンドゥの頬を叩く。
「ごほっ、ごほっ。大丈夫だ。それよりあんまり速く動かないでくれ。首がもげるかと思った」
「あ、ごめん」
首を摩るジェンドゥ。どうやら衝撃波よりも回避行動の方がダメージが大きかったらしい。シェイプシフターもムチウチとかなるんかな?
「ん?」
上から何かが落ちてくるのに気づいて避ける。水っぽい音を響かせて落下したそれはネトルーガの上半身だった。さっき切り落とした奴だろう。
まさか本当に復活するとはなあ。わかっていても実際に見ると生命の神秘に驚かずにはいられない。
「なあ。ネトルーガは・・・・・・不死身なのかな?」
不安そうに動かないネトルーガの上半身を見るジェンドゥの頭を撫でる。
不死身なら不死身で、俺は手加減しなくて済むから楽なんだが、おそらく違うだろう。なぜなら奴は俺の攻撃を防いでいた。奴が不死身なら俺の攻撃なんて無視して突っ込んでくればいいだけだ。そうしない理由、考えられるのは2つ。回復に制限があるか、回復出来ない部位があるかだ。
おそらく前者だろうとは思う。下半身だけの状態から復活できるのに、回復出来ない部位があるとは考えにくい。
・・・・・・だがそれが逆に引っかかる。普通復活するなら頭のある方が本体になるだろ。プラナリアのように2つに切ったら両方に頭が出来るなら納得もできる。そうすりゃ2人に増えて戦力的にもいいだろう。だが実際には切り離された上半身は確実に絶命しており復活の気配はない。
これには何か理由があるのか?
「おい、来るぞ!」
ジェンドゥの声に視線を上に上げると霧の奥にネトルーガの巨体が見えた。ああもう、考え事くらいゆっくりさせてくれよ。
「【煌々連弓】」
ネトルーガが見える距離を維持しつつ、適当に魔法で牽制する。突進スキルを使おうとした瞬間、出足を止めればスキルを発動出来ないのは前回の戦闘で見ている。
「小賢しい真似を! 我は不死身だ。大人しく殺されろ勇者よ!」
「不死身ってのは俺の国じゃ負けフラグなんだよなぁ」
とはいえこのままチマチマ削って、あるかも分からないネトルーガの回復限界を待つのも嫌だ。何か手はあるはず。
「【我が覇道──」
「【亜空断】」
踏み出そうとした足を膝から切り落とす。バランスを崩したネトルーガは両手をついた。すぐに蒼い紋様が輝き回復を・・・・・・ん?
「──阻むもの無し】!」
「うお! マジか」
ネトルーガはそのまま四つ足で突進を始めた。まさしくイノシシのようだ。
だがその体勢では高さが足りないな。大きく跳躍してネトルーガを飛び越・・・・・・え。
「フン!」
俺の動きを見越したかのように飛び跳ねたネトルーガは、空中で俺に追いつくと、そのまま両手を振り下ろした。
「マジかよ」
衝撃を感じた次の瞬間、気づいた時には地面に半分埋まっていた。痛・・・・・・くはない。まあジェンドゥがくらっていたら3回は死んでただろうが。と、ジェンドゥは
「あああああああ」
空から悲鳴とともに落ちてくるジェンドゥをキャッチする。攻撃の直前にジェンドゥを放り投げていたのだ。おかげでジェンドゥは無傷だ。
「あ、アンタ! バカか! 死ぬかと思ったぞ」
「いやでもあのままだと、それこそジェンドゥ死んでたぞ」
「わかってるよ! わかってるけど!」
突然の紐なしバンジーはさすがに怖いか。
ジェンドゥの背中を撫でて慰めていると、肩で息をしながらネトルーガが現れた。渾身の一撃を当てたネトルーガは俺がジェンドゥとじゃれているのを見ると、初めてその目に動揺を見せた。
「ハァ・・・・・・ハァ・・・・・・コレでも、効かないのか」
「まーな。どうするよ自称不死身さんよ。先に心が折れそうか?」
「ほざけ。ならばココで永遠に貴様を足止めするまでだ。我が覚悟を舐めるなよ」
「そりゃ無理な話だ。何せ俺はお前の弱点をもう見切っちまったからな」
「なに!?」
さっきネトルーガの足を切り落とした時に気づいた。
ネトルーガの回復は全身に走る紋様が蒼く光ると発生する。おそらくあの紋様はエネルギー回路のようなモノだろう。そしてそれはある場所を起点に光だしている。
そのある場所とは・・・・・・。
「よっと、ジェンドゥ、ちょっと離れてろよ」
ジェンドゥを下ろし、軽く準備運動をする。確実に潰すなら物理攻撃が1番だ。
「ハッタリだ!」
「腰が引けてるぞ。どっしり構えてろよ。『不死身さん』」
後ずさるネトルーガの一点に狙いを定め走り出す。ネトルーガが戦鎚を構えて防御姿勢をとるが、その程度で止められるほど俺の攻撃は甘くない。
その場所は人体の急所だ。体の正中線、下半身側に位置し、精力の中心となる部位。すなわち──
「股間だぁぁあああああああ!!!!」
「ぐおあああああああああああああああああああ!!!」
ライダーキックでネトルーガの股間を防御ごと突き破る。背後でネトルーガが膝をつく音が聞こえた。
「おご、あ」
ネトルーガが声にならない呻きをあげながら股間を押さえている。いや、押えられていない。そこにあるはずのモノはもうないからだ。
そして・・・・・・狙い通りネトルーガの紋様は光らず、回復もしない!
「どうだネトルーガ。やっぱりお前の回復の起点は股間だったようだな」
「お、お、お、」
「お前が毎回頭や心臓じゃなくて下半身から復活してたのはこれが理由だ」
「おーー! お、おーーー!」
「これでお前はもうあのチートじみた回復が使えないわけだが、どうする? まだやるかい?」
「あお、あお、お」
「・・・・・・あの、ごめん。大丈夫?」
ネトルーガが悶絶していて会話にならない。なんか男として申し訳ない気分になってきた。
「フーーッフーーッ。・・・・・・よくも、やってくれたな、勇者よ。そうだ。我が力の源は、我が聖槍。我は不能になる代わりに、その有り余る精力を、生命エネルギーに変換していたのだ」
「ああ、そうなんだ。なんか、ごめんな」
「許すものか。もはや我に勝ち目はない。だがタダではすまさんぞ」
ネトルーガの瞳に憎悪が宿る。股間を押さえて蹲るネトルーガに何か出来るとは思えない。だが手負いの獣が1番恐ろしいと言うし、念の為身構える。
「『死ね。無様に、苦しみぬきながら』」
「・・・・・・・・・・・・っ!! 」
これだけ凄んでおいて恨み言? だが霧の奥から何かが倒れる音でハッとした。
「ジェンドゥ!!!」
ネトルーガを飛び越え、慌てて駆け寄る。
ジェンドゥは倒れ伏し、目に涙を浮かべて喉を掻きむしっていた。
今のはタダの恨み言ではない。ネトルーガから奴隷への『命令』だ。してやられた。いや、今までの事からこういう事態も予測できたはずだ。完全に油断した俺のミスだ。
「だ・・・・・・び・・・・・・」
苦しげに手を伸ばすジェンドゥ。反省は後だ。このままではジェンドゥが死ぬ。だが俺は解呪の方法を知らない。考えろ、考えろ・・・・・・何かあるはずだ。っそうだ!
「【時間停止】!」
苦悶の表情で手を伸ばした姿勢のまま、ピタリとジェンドゥの動きが止まる。これで少なくとも死ぬ事はなくなった。
「チッ。まだ手札を隠していたか」
「・・・・・・やってくれたな、クソ豚」
「この我の首と引き換えの犠牲なら安いものだろう」
「ふざけんなよ」
倒れ伏すネトルーガの顔面を掴んで睨みつける。
「今すぐジェンドゥにかけた命令を解け。殺すぞ」
「断る」
「・・・・・・」
ジッとネトルーガを睨みつける。
その顔は既に死を受け入れた顔だった。敗北しながらも、せめて一矢報いてやろうという覚悟があった。
舌打ちをし、ネトルーガの体を引きずりながら歩き出す。
「クソブタが。ともかくお前は王都に連れていく。王都なら何かしら情報を引き出す方法なり魔法なりがあんだろ」
「それも断る」
「ああ? テメェに選択権があるとでも・・・・・・っ」
ネトルーガの頭部が蒼く輝きだす。それは先程までの生命力を感じさせる輝きではない。臨界点に達したエネルギーが解放される寸前の輝きだ。
「魔王様に栄光あれ」
閃光とともに熱波と衝撃波が解き放たれる。眩さに目が眩み、再び目を開いた時にはネトルーガは消えていた。ただ地面に焼き付いた跡だけが、そこで何が起こったかを物語っていた。
「・・・・・・」
少し呆然とした後、おもむろにステータスを開く。
──────────────────
名前:荼毘龍斗
年齢:16
種族:人間
職業:勇者
レベル:732
特性:【竜頭蛇尾】
──────────────────
100以上下がったレベル。それを見れば今度こそネトルーガが死んだフリではなく、絶命したということは一目瞭然だった。
それは同時にジェンドゥを助ける方法や、魔王につながる手がかりを失ったという証明でもあった。
ばたりと地面に仰向けに倒れる。
何一つ上手くいかない。自己嫌悪に視界が滲む。何が最強の勇者だ。結局俺は・・・・・・俺は・・・・・・。
何も見通せない濃霧の中、しばらく声を殺して泣き続けた。
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