第21話 善人
このままではダメだ。
きっとこれからも俺には戦わなければならない場面が来る。だがその度に逃げていては国や民からの信頼を失う。かと言って求められるままに戦っていたらそのうち取り返しのつかない所までレベルが落ちてしまう。
俺が物怖じせずに戦えるのは、高レベルゆえに自分が死なないという確信があるからだ。もしレベルが下がって少しでも苦戦するようになったら、俺は・・・・・・はたしてまともに戦えるのだろうか。
ならばどうする。
・・・・・・仲間が必要だ。
俺の秘密を共有でき、俺に代わって戦ってくれる仲間が。
その事を悟った俺は城に『探さないでください』と書き置きを残してダービー君の格好でギルドに来た。王都の防衛も一度アレを放っていたおかげか、あれ以降来ていないし、問題はないだろう。
「うーん」
ギルドの仲間募集の掲示板を眺めるが、お眼鏡に適うものはそう簡単には見つからない。
求める条件は『口が堅い』『ある程度の強さ』『善良さ』だ。
口が堅いのは俺の竜頭蛇尾の事を人にばらさないようにだ。これは絶対。
強さについてはそこまで重要視していない。一応仲間を強化する方法について当てはあるからだ。上手くいくかは分からないが、あまり高望みはできない。
善良さというのは前述の強化をした場合、めちゃくちゃ強くなるからだ。強くなった途端、横暴に振る舞うようでは俺の評価まで下がりかねない。
・・・・・・あとついでにかわいい女の子がいると嬉しいな。やっぱりむさいオッサンばっかりじゃねぇ。ほら、勇者の代わりに戦うのなら華が必要っていうか。俺自身に華があるかどうかはさておき。
だがそれ以前に戦士職というのが需要がないな。いや供給過多というべきか。それに対して魔法使いやヒーラーのような存在は貴重で引っ張りだこだ。戦士としてギルドに登録してしまったのはやっぱり失敗だったな。
うーん。それともロベっちとかに強そうな冒険者を紹介してもらうか? 大貴族だしそれぐらいのツテはあるだろ。もちろん理由は適当に誤魔化して。
・・・・・・いや、だめだな。
そんな事したら間違いなく貴族の息のかかった冒険者が来る。そんな相手に竜頭蛇尾の事は話せない。
そうだ、ジェンドゥなら誰か紹介してくれるか?・・・・・・いや、ダメだな。初めてギルドに来た時の事を思い出す。ジェンドゥも色んな人に声をかけまくっていたが尽く無視されていた。あれはなかなかに哀愁誘う姿だった。
仕方ない。ここで突っ立っているわけにもいかないし、俺もジェンドゥに習って当たって砕けろ作戦で行くか。
「あの、戦士なんですけど、パーティに入れてもらえないでしょうか」
「戦士? 間に合ってるわ」
「あ、そうですか・・・・・・」
「あの、パーティ募集みたんですが」
「は? 職業は?」
「あー、戦士、です」
「はぁ。よく見ろよ。募集してんのは後衛の魔法使い! それとも何か遠距離魔法使えんのか?」
「いや、その」
「ちっ、冷やかしなら他所でやれ。しっしっ」
「あの・・・・・・」
「うわコッチ来た」
「なんでもするんでパーティに・・・・・・」
「お兄さんさぁ、ちょっとは現実見なよ。そんなブカブカの鎧着てる人連れて行っても足引っ張るだけなんだって。少しは相手の迷惑とか考えたら?」
「・・・・・・」
なんだこれ。心折れそう。
ギルド併設の酒場でテーブルに突っ伏しながら絶望する。
みんな冷たすぎるよ。いや命懸けの仕事なんだから当然なんだけどさ。ジェンドゥはこんなに辛いことやってたのか。次会ったら何か奢ってやろう。
「あの・・・・・・」
にしてもどうしよう。このプランで行くのは不可能な気がしてきたぞ。
「あの・・・・・・」
こうなったら新人を取り込むか? いや完全な素人では俺の考えてる強化方法が失敗する可能性が高い。ここはやっぱりある程度の強さが。
「あの!」
「あ、おれ?」
耳元で聞こえた声に顔をあげるとシスター風の女性がこちらを見ていた。
「すいません気づかなくて。何の御用でしょうか」
「いえ先程から見ていたらお困りのようでしたので。もしよろしければ私にお話しください。何か力になれるかもしれません」
そう言ってシスターは金属の輪のような首飾りを胸の前に掲げた。神にもすがる、か。
「実はパーティを探しているんですが、どこからも断られてしまって」
「まあ、それでしたら私のパーティに入りますか?」
「え」
なにこの人、天使か?
「いや、でも、いいんですか?」
「はい。神も『汝、隣人を助けよ』と仰っています。ね、いいですよね。ミシェル、アラン」
その声に近くのテーブルで食事をしていた二人組が振り向く。見たところ女魔法使いと男剣士のようだ。
「またソフィーの『人助け癖』が出たわね。どうする? アラン」
「そーだなぁ。とりあえず冒険者タグ見てからだな」
「あ、どうぞ」
首から下げていた冒険者タグを渡す。あ、そういえば更新してない。確か冒険者タグを更新するには受付行って金払わなきゃいけないんだった。ということは。
「ダービー、戦士、レベル15、か」
「あ、いや、最近更新してなかったので今はもう少し高い、ですよ?」
「そう? じゃあ何レベ?」
くっ、どうする。あんまり高すぎても変だし、低くても相手にされない。『私何歳に見える?』と同じくらい難易度の高い質問だ。
「えーと、さんじゅう・・・・・・に、ですね」
「32・・・・・・だいぶサボったな。まあ金かかるし気持ちは分かるが」
よかった。ぎり不審がられてはいない。
「ね、アラン。いいですよね。ね、ね」
「あーあ、ソフィーがこうなったら面倒よ。どうするの?」
「うーん。じゃあとりあえず一回お試しで。荷物持ちでもいいなら大丈夫、かなぁ」
え、まじで。
「お願いします荷物持ちやらせてください! いやぁ俺荷物持ち大好きなんだよなぁ。荷物持つの楽しみだなぁ!」
「ダービーさん。変わったご趣味をお持ちなのですね」
「ばかソフィー。あれは強がりっていうのよ」
「ははは。まあ何にせよ。よろしく、ダービー」
アランから差し出された手を握る。
何だこの人たち、天使の集団か?
〇
「ダービーさん。ほんとに大丈夫ですか?」
「はい。まだまだイケますよ」
心配そうにこちらを伺うソフィーさんに力強く返す。今俺はパーティ全員分の食料や野営道具などを持っている。貸してもらった大容量のバックパックは今にも爆発しそうなほどパンパンだ。しかしそれでもまったく重さを感じない。逆に意識しとかないとどこかにぶつけそうだ。
「それなら良いのですが・・・・・・。もし限界でしたらすぐにいってくださいね」
ソフィーさんは優しいなぁ。
さすがは聖職者だ。
「がんばるわねぇ。もしかしてホントに荷物持ちが趣味なの?」
「いやぁ、はは」
いたずらっぽい笑みを浮かべて魔法使いのミシェルさんがからかってくる。肯定しても否定しても変なので曖昧な笑みを浮かべておく。
「悪いね、ダービー。僕達もはやく魔法の鞄を手に入れたいところなんだけど、なかなか手が出せなくて」
申し訳なさそうにアランが眉を下げる。無理言ってついてきたのは俺なのに人がいいなぁ。いや無理言ったのは俺じゃなくてソフィーさんか。
ここに来るまでの会話で何となく彼らの人となりがわかった。
まずはリーダーのアラン。大盾とショートソードのタンク役だ。筋肉質で体育会系の見た目をしているが、押しに弱い。
次に魔法使いのミシェル。ローブにとんがり帽子のステレオタイプな装備の女性だ。アランとは幼なじみらしく、ときおり無自覚にかイチャついている。
最後にシスター・ソフィーさん。ゆるふわな雰囲気の癒し系だ。それに優しい。それは俺をパーティに誘ってくれたことからも明らかだ。だが同時に推しが強い。
今のところ、かなりパーティの雰囲気はいい。部外者の俺がいる中でも孤独にさせないためか、みんな積極的にコミュニケーションを取ろうとしてくれている。これは勇者的にも高ポイントだ。
それに強さという点でも期待できそうだ。なんでもアランのレベルは48で、もうすぐギルドの公認冒険者なるものになれるらしい。
公認冒険者とはなんぞと思い聞いてみると、どうやら冒険者ギルドではレベル50以上にタグを更新する時に【鑑定】により嘘をついていない事を証明しなくてはならないらしい。それでめでたくギルドに認められた冒険者は『冒険者ギルド公認冒険者』となり、通常では受注できない依頼を斡旋してくれるようになるのだと。
そういえば冒険者登録した時にそんな事言ってたような気がする。
まあともかく優しさ、強さと既に高評価だ。これは早速期待できるなぁ。
俺が確かな手応えに心の中で頷いていると、先を歩いていたアランが立ち止まった。
「ついたか。ここが今回の目標の『地下樹林』だ」
そういって振り返るアランの横には『注意! この先地下樹林↓』と書かれた看板が立っている。矢印の先を見ると平原の中にぽっかりと大穴が空いていた。
「じゃあ攻略前に休憩がてら最終確認するか」
ダンジョン前で車座になって話を聞く。
主に探索ルートや休憩地点の予定、狩り目標の魔物の特徴の確認などだ。アラン達にとってはダンジョン前のルーティンなのだろう。手馴れたものだ。
「よし、ミーティングは終わりだ。じゃあ早速ダンジョンに行く・・・・・・前に」
アランがこちらに向き直り手を差し出す。
「改めてダービー、今日はありがとう。君のおかげで時間的にも体力的にも余裕を持ってダンジョンまで着けたよ」
「こりゃどうもご丁寧に」
面と向かって礼を言われるとこそばゆいな。照れながら握手を返す。
「普段ならここに着くまでに一度休憩を挟んでいたからさ。主にミシェルとソフィーのためにだけど」
「アラン~? それはアタシ達が軟弱って言いたいのかしら?」
「い、いやそう言うわけじゃ」
「そんな事言うならアンタもダービーみたく全員分の荷物持ってくれてもいいのよ?」
「よ、よし、そろそろ出発するか!」
ミシェルに脇腹をつつかれたアランが強引に話を切り上げて出発を宣言する。逃げたな。
〇
大穴にかかっている縄梯子を降りる。長いかと思っていたが意外とすぐ底に着いた。最下部は洞窟のようになっており、一本伸びた通路の先から外の光が見える。
全員が降りてくるのを待ってから外に出る。
地下樹林の中はじっとりとした熱気が満ちていた。高い湿度と温度で動いてなくても汗ばんでくる。この暑さはどことなく日本の夏を思わせた。耳を澄ませばセミの声が聞こえてきそうだが、聞こえてくるのは甲高い獣の声だった。
空を見上げると木々の隙間から青い空と鋭い日差しが覗いていた。しかも驚いた事に光源は2つある。
「なんで地下に太陽が2つもあるんだよ」
「ははは。地下樹林って名前だけど、あの大穴の先はこの異界に繋がっている。実際に見てみると驚くよね」
一応道中で話には聞いていた。あくまであの大穴は入口で、他の場所を掘っても地下樹林には繋がらないらしい。まあそれ自体はいいんだ。俺がうっかり本気出しても崩落の心配が無いってことだし。
だがこの暑さは想定外だ。ただでさえ俺の全身鎧は通気性死んでるのに。炎天下で着ぐるみ着てるようなもんだぞ。
「相変わらず熱いわねココは。ソフィー、あれやって~」
「はい。【ミストベール】」
ソフィーさんが杖を掲げると霧状の物質が俺たちに降りかかった。すると先程までの暑さが嘘のように引いていく。制汗剤でも塗ったかのような爽快感だ。
「おお・・・・・・こ、これが魔法。ありがとうございますソフィーさん」
「いえいえ。皆さんのお力になれたのなら何よりです」
ふんわりと微笑むソフィーさん。天使か。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます