第19話 パレード・後
ギルドの喧噪の中に紛れ、一人酒を(ストローで)飲む。ストローなのはダービー装備で兜が外せないからだ。
「許せねぇよ!」
どん、と飲み干した杯をテーブルに叩きつける。衝撃で杯が壊れ取手だけが残った。
店員に謝りながら新しい酒を頼む。
「俺が、俺が、どれだけあのパレードとパーティを楽しみにしてたか!」
目の前にある飯を貪りながら一人愚痴る。
結局その後の予定は全部中止になった。そりゃそうだ。あの後は国王とかいうこの国の最高権力者の出番もあるのだ。それなのに勇者の暗殺未遂なんてされたらやれるはずも無い。
仕方ない、仕方ないのだ。そんな事は理解している。
だが
「うぐぉぉおおお!」
そんな正論で納得出来る訳では無いのだ。
こんなの飲まなきゃやってられねぇ。
「はぁ」
なにより、勇者がやられたという事実が不味かった。俺は生きてるとはいえ、それは高レベルゆえのチートだ。その俺でも避ける事が出来なかった。それならば王が狙われても防げないのではないか。そう思われても仕方がない。
実際防げるかは分からないしな。俺をやった
だがあの暗殺者には思い知らせなければならない。
「復讐だ・・・・・・」
誰を殺し損ねたのか。誰を敵に回したのか。
それを奴に思い知らせてやる。
手がかりは2つ。
1つは俺が雷撃で倒した陽動役だ。残念ながら暗殺者の方は俺が刺されたショックで呆けている間に逃げられてしまったが、陽動役の死体は残っていた。残っていたのは死体──というか粘液だった。
鑑定の結果、それはシェイプシフターという魔族の粘液だった。シェイプシフターはスライム系の魔物が進化して成る魔人らしい。その最大の特徴は、人を食らってその全てをコピーしてしまう事だ。容姿、記憶、性格、能力、それら全てをコピーし、人に成りすまして人の集団に潜伏する。
やっかいな魔族もいたもんだ。容姿だけならまだしも記憶や性格までコピーされたら見破れるはずも無い。それは街に潜伏されても無理はない話だ。
それにこの陽動役は氷山の一角だろう。実は既に王都には俺が思っている以上のシェイプシフターが侵入してスパイ活動を続けているのかもしれない。俺の身近な人物も実は・・・・・・。
「よっ!」
「うわ!」
背後から急に声を掛けられてビックリした。
怖い事考えている最中って小さな事でも驚いちゃうよな。
「なんだ、ジェンドゥか」
「おう。今日はやけにたくさん食ってるな。なんかあったの?」
「まあ、な」
ジェンドゥも正面の席に座り注文する。その姿はこの間あった時とは違い、明らかに上機嫌だ。
「なんか調子良さそうだな」
「まあね! 大きな仕事が何とか片付いた所だから。たまにはパーッと飲もうかと」
「ほーん」
ジェンドゥがジョッキを勢いよく煽って噎せるのを眺めながら酒をストローで啜る。
話が逸れたな。
要は刺客を向けてきたのは魔王軍だろうという話だ。
一応陽動役が実は生きていて、犯行を魔王軍に擦り付けるためにシェイプシフターの粘液を置いていった──という説もあるが、そんな事言っていたらキリが無いしな。それに今の所国外に戦争の兆候はないらしいし、魔王軍の仕業で確定でいいだろう。
もう1つの手がかりは暗殺者のナイフだ。
俺の胸を貫いたナイフは今も俺が持っている。現代なら凶器が分かれば指紋やら購入ルートやらで簡単に犯人にまでたどり着けそうだが、ここは異世界。そう簡単にはいかない。
いや異世界だからこそ魔法とかで簡単に犯人にたどり着けるのか? だが俺にはそういう伝手はないしな。
うーん。どこかに暗殺者に詳しい人とかいないか?
「はぁ」
「おいおい辛気くせーな。何があったのか話してみろよ」
「・・・・・・じゃあ」
そういえばジェンドゥって斥候職だったな。ゲームだと暗殺者って斥候系の職業な場合もあるし、案外詳しいかもしれない。
でもどう話をするべきか。馬鹿正直に話せば俺が勇者だとバレる。
「・・・・・・実は最近曰く付きのナイフを手に入れてさ。それがどういうモノか調べたいんだけど俺にはやり方が分からないんだ」
「ふーん、どんなナイフかちょっと見せてみろよ。今持ってるか?」
「ああ。ちょっと待ってろ」
ごそりと荷物を漁りナイフを掴んだ瞬間、はたと気づく。これナイフを見せたらワンチャン勇者とバレる可能性あるんじゃないか?
距離があったとはいえ、あれだけの衆人環視の中、多くの人にこのナイフは見られている。もしコレがあの勇者を刺したナイフと同じモノだとバレたらマズイことになる。
「悪い、忘れたみたいだ。今度見せるわ」
「なんだ。せっかくこの間は相談乗ってもらったからその礼がしたかったのに」
「この間・・・・・・? あ!」
一瞬なんの事か分からなかったが、思い出した!
あのパレードの日はジェンドゥが
だがそれを今表に出すワケにはいかない。
「あー、ドンマイ、ジェンドゥ」
「え、なんでボクの方がなぐさめられてんの?」
「せっかく勇者にお目見えできる日だったのに、あんな事になって。せっかくの矢文も無駄になっちゃったな」
「いや矢文は飛ばさねえから」
「そうか? まあ何にせよきっと勇者もお前のこと待ってるはずだ。諦めんなよ」
「・・・・・・おう」
もちろん俺も諦めないぞ。
何とか自然な流れでジェンドゥと会う方法はないだろうか。
ギルドに名指しで依頼を出すとか? 霧雨平原では一緒に依頼をこなした訳だし、その時の仕事ぶりが良くて~みたいな事言えば自然にいけるか?
待てよ、せっかくだからジェンドゥが告白しやすいようなシチュエーションを考えた依頼にしよう。ジェンドゥだって血みどろのダンジョンより一面の花畑みたいな場所の方がやりやすいだろう。告白には雰囲気も大事なのだ。
・・・・・・なんかデートコース考えてるみたいになってないか?
〇
ジェンドゥとの飯の後、時間停止でこっそり自室に帰ってくると、部屋の中にロベっちがいた。その額には青筋が浮かんでいる。時間停止を解いた瞬間怒鳴り散らしそうだ。
コイツ、俺が帰ってくるのココで待ってたのかよ。
というかロベっちてかなり偉い貴族なんじゃないのか? なんで本人がいつ帰ってくるかも分からない勇者を待ってんだ。そういうのはカワイイメイドとかに任せとけよ。
それでもわざわざ本人が待っていたのは、ロベっちがよっぽどキレているか・・・・・・本人が来なければならないほどの重要な案件が入ったか。
どちらにせよあまり聞きたい情報では無さそうだ。でもいつまでも俺の部屋にブチ切れロベっちの等身大像を飾っておきたくはないので大人しく時間停止を解く。
「・・・・・・勇者殿。やってくれましたな」
ロベっちからすれば俺は突然現れたように見えるはずだが、それに突っ込むことすらしない。これは相当キテるな。
「吾輩言ったはずですぞ。『 この式典は国の威信と魔王軍の牽制を兼ねた重要なモノ』であると。それを、それをあのような・・・・・・」
ぷるぷると震えるロベっちはまるで噴火前の活火山を思わせる。
だがこちらにだって言い分はあるぞ。
「そもそも式典の警備はそっちの役目だろ。俺はあくまでもてなされる側。しかも俺は潜伏してた敵を一人倒してる。むしろ俺は頭を下げられる側だとおもうんだがな」
「・・・・・・分かっておりますぞ。それでも最強の代名詞たる勇者様なら、何が起きようと問題は無い。そういった安心感が殺されたのが大きいのですぞ」
「あんしんかん?」
「『この戦いで何が起きようと勇者様が守ってくれる』そう思うからこそ人々は安心して日々を過ごし、戦士は戦いに赴けるのです。しかし今回の事で勇者といえども完全無敵ではないと知れてしまった。せめて刺された後も平然としてくれれば良かったものを、あのような取り乱し方を見せれば人心も揺らぎましょう。これで『勇者に任せては居られない。自分の国は自分で守らなくては』と奮い立つのなら良かったのですが、そうはなっていない。今人々の心にあるのは魔王軍への恐れと勇者への不信感だけですぞ」
「う」
なんか下手に怒鳴られるよりも、こういう怒り方のが怖い気がする。
「そりゃ俺だって刺されたの初めてだし、それに心臓刺されて生きてるとも思ってなかったし。というかなんでこのナイフは俺に刺さったんだよ。よっぽど凄い武器なのか?」
俺を刺したナイフを取り出してじっくり眺める。少し禍々しいデザインではあるが、それほどの業物には見えない。いや、俺には鑑定とかできないけども。
「それは『致命のナイフ』でしょうな。【致命】属性が付与されているナイフですぞ」
「ちめい?」
「低確率で相手の防御力を無視して攻撃出来る能力ですぞ。暗殺者にはその【致命】の発動確率を上げるスキルがありますからな。それで不運にもやられたのでしょう。もっとも高レベルの暗殺者は条件さえ揃えば確定で【致命】を発動させることができるのですが」
「へぇー、詳しいな」
「これでも大貴族ですからな。暗殺されかけたことは1度や2度ではないのですよ」
怖、貴族の闇だな。
「と、いうか。そんな話をしに来たわけではないのですぞ」
「あれ、そうなの? てっきりブチ切れにきたのかと」
「それもあるのですが、それより重要な事ですぞ。──魔王軍に侵攻の兆候があったのです。勇者の力が必要ですぞ」
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