第10話 霧雨平原・1
天気は快晴。風もなし。絶好のダンジョン攻略日和だ。
装備は借り物だが、要所を守る革(レザー)の軽鎧で動きやすい。その上から地味な茶色ローブを羽織れば見た目は立派な冒険者だ。一応剣もくれたが、なるべくこれを振る事はないようにしたい。
あとついでに謎の腕輪ももらった。話によると【鑑定阻害】なる魔法がかけられているらしく、ステータスを【鑑定】などで盗み見られる事を防いでくれるらしい。
・・・・・・ステータスって盗み見られる事あんのかよ。それは早く知りたかった。もし俺がダービーの時に【鑑定】されたらダービー=勇者リュートとバレてしまう。
まあダービーの時に会った事のある人なんてそんなに多くないし。今まで騒ぎになってないという事は大丈夫だろう。たぶん。
それはそれとしてこの腕輪は貰おう。
さて、確か集合場所は中央広場の初代国王像の 前だったな。ここは貴族街に近いので、基本的に身なりが汚く平民である冒険者はあまり寄り付かない。逆に言うと、ここに集合するような冒険者は目立つので俺たちの集合場所には持ってこいだ。
一緒に行くのは俺の他に3人と聞いている。 一応時間はまだだが・・・・・・
と、見覚えのある眼鏡の女性が
「マリアンヌさん。久しぶり」
「おぉ~。勇者様。まさか本当に来るとは」
「信用ないな」
しょうがないけど。
「それで今日一緒に行くのって」
「はい、私です。先に言っておくと私は調査担当で戦いは出来ませんので、よろしくお願いしますね」
マリアンヌさんは王宮の図書館司書だ。
きっと相当頭いいんだろう。
「それで後の2人は・・・・・・」
「僕だよ。久しぶりだねリュート」
「お前は・・・・・・」
爽やかな笑みを浮かべて握手を求める金髪碧眼の美男子。
こいつは・・・・・・・・・・・・・・・・・・誰だっけ?
「マリアンヌさん。誰ですかこの馴れ馴れしい男」
「あ、そうか。あの時は兜を被ってたから顔は見せてないか。僕だよ。ジミーだよ」
「ジミー・・・・・・あ、その地味な名前は!」
「君そんな事思ってたのかい」
「王国最強の騎士ジミーか! おお、あんたがいるなら心強い・・・・・・かなぁ?」
「そこは断言してほしかったけど、まあ君が相手では仕方ないか」
俺は経験値をなるべく受け取りたくないから、一緒に行くのは強い奴がいい。経験値は敵にトドメを刺す事や他のサポート量により分配される量が決まるらしい。強い奴がいるならソイツに任せて俺は戦わないという選択肢ができる。
ただ問題は俺にとってジミーがそんなに強いというイメージが無いことだ。なんせ棒立ちの俺にかすり傷ひとつ付けられなかった訳だし。
「一応ジミーってこの王国で一番強いんだよな・・・・・・?」
「いや、恥ずかしながら、そういうワケではないんだ」
「え? いや王国最強の騎士なんだろ?」
「正確には『王国騎士の中で最強』なんだ。冒険者の中には僕より強い人はたくさんいるよ」
「ええ~? なんだそりゃ。詐欺じゃん」
「おっしゃる通りさ。これは貴族や騎士団長が見栄を張るために呼び始めた名だからね。僕としてもその名はむず痒いよ」
うーん。今まで100レベルが人類最強くらいの基準で考えてたけど、違うのか。
「じゃあ冒険者で最強の人は何レベルくらいなんだ?」
「僕も詳しくは知らないが、以前聞いた時は300ぐらいだった気がするね。今はもっと強くなってるかも」
300・・・・・・マジか。世の中強い奴はいるもんだなぁ。
だとしたら魔王はもっと強いのか? 300ぐらいレベルがあればいいと思ってたけど、やっぱり500ぐらいは必要か? まあそれは後で考えよう。
「てかもう一人は? まだ来てない? ってかどんな奴?」
「もう一人は冒険者協会から霧雨平原に詳しい斥候職(スカウト)が来てくれるはずさ。でも僕達もどんな人が来るかは知らないんだ。なにぶん緊急の任務だからね。まあ集合場所は伝わってるはずだし、まだ時間には早い。気長に待とう」
この世界にはそこまで正確な時計が普及しているわけではない。時間は教会の鐘が一定時間事に鳴らされるので、それで皆把握している。
そういえばこの世界の1日って日本で言う何時間なんだろう。そもそも時間は何進法で測っているんだ? 俺は日本にいた時から生活習慣ガタガタだったから1日が急に30時間になってても気づけない自信がある。
「・・・・・・ん?」
ぼーっと空を見ながら待っていると、妙な感覚を感じ取った。この感覚は・・・・・・敵意かな? だが少し違う気もする。それに敵意の矛先も違うな。狙いは・・・・・・ジミーか?
まあジミーは名前は地味だが金髪碧眼の美男子だ。しかも(騎士の中で)最強の男だ。人知れず恨みを買うこともあるだろう。
暇なので敵意の発生源を探る。
・・・・・・いた。
赤毛に赤眼、この国では一般的な顔つき。さらにソバカスがなんだか芋っぽい雰囲気を出している。人混みに紛れたら分からなくなってしまいそうな地味な顔立ちだ。
・・・・・・ってか、あれジェンドゥじゃね?
路地の陰からじっとコチラ・・・・・・というかジミーの様子を伺っている。何やってんだあんな所で。
憧れや好意ならわかる。ジミーはイケメンだし。
だがなぜ敵意を?
過去に告白して手酷くフラれた? ジミーの政敵から調査依頼を受けた?
うーん。考えても分からんな。
暇だし絡みに行くか。そういえばこの間のダンジョンでまた置いてけぼりにしちゃったし、それも謝らないと。
どうもジェンドゥはまだ俺に気づいていないようなので、そっとジェンドゥの背後に回り込んだ。
「わっ!!!」
「ひうっ!!!!!!!!」
大声で脅かすとジェンドゥはビクリと猫のように跳ね、慌てて距離をとった。その手は腰に差したナイフに添えられている。
・・・・・・そこまで驚かなくても。
「な、な、な、なんだアンタ!」
「はぁ?」
ジェンドゥは焦ったようにコチラを睨みつけると、じりじりと下がり始めた。
あれ? 俺の事が分からないのか?
もしてして人違い? いや流石にそんなはずは。
わけが分からず、頬をかく・・・・・・ん?
あ、俺今日は兜被ってないや。
今の俺はダービーではなく勇者リュート。
ダービーの時は顔を見せてないし、フルフェイス型の兜のせいで声も篭って変わっている。これじゃジェンドゥも気づけないよな。
いや、逆に気づかれなくて助かったか。今完全に油断していた。今の俺は勇者リュート。ダービーと同一人物と気づかれるわけにはいかない。
さて、どうやって誤魔化すか。
「アンタ、ボクに何の用だ」
うーん。ここは初めから距離の近い馴れ馴れしい人スタイルで行くか。
「いやぁさっきから俺たちの事ジッと見てるからさぁ。ちょっと気になっちゃって。俺のツレになんか用?」
「は? 俺たち? 何の事だよ」
「誤魔化すなよ。あんだけ強い敵意をぶつけられたらゴブリンでも気づくぜ」
「ちっ」
「おーい。リュート君、何してるんだい?」
俺がジェンドゥと言い争ってる事に気づいたジミーとマリアンヌさんがコチラに来た。あー、どうしよ。
俺としてはジェンドゥがどうしてジミーを睨みつけていたか知りたかっただけで、ジェンドゥをどうしたいってわけではない。
騎士って王宮に出入りするぐらいだから平民より偉いよな? しかもジミーは王国最強の騎士とか言って国が担ぎあげたりするぐらいだ。爵位を持ってたっておかしくない。そんな人を睨みつけていたとか、何らかの罪に問われるんじゃないだろうか。ジミーはそんな事する人には見えないが、法律がそれを許さない場合もある。俺はこの国の法律はよく知らないが。
・・・・・・仕方ない。ここは俺の勘違いだっと言う事にしよう。
「いやー、なんかこの子が俺たちの事ずーっと見てたからさ。この子が最後の一人なのかと思って声掛けてた」
「なるほど。それでどうだったんだい?」
「俺の勘違いだったわ。ごめんごめん。あっはっはっ。じゃあなお嬢ちゃん」
「・・・・・・待て」
華麗にその場を離れようとするも、逆にジェンドゥに呼び止められる。ちょっと不自然だったか?
「これ、アンタらか?」
ジェンドゥが一枚の紙を差し出してきた。紙には複雑な模様の判子がでかでかと押されているが、奇妙な事に半分に切られている。
なんだこれ。俺はこんなモノ落としてないぞ。と思っているとマリアンヌさんが似たような紙を取り出した。その紙同士をくっつけると、2つの模様は綺麗に合わさった。
なんという偶然! なわけないよな。これは・・・・・・割符ってやつか?
割符は冒険者ギルドで依頼を受けると渡される2つ1組の印だ。それが依頼者と受注者の証明になる、らしい。
「まあ、ではアナタが冒険者ギルドから依頼を受けてくださった方なのですね。私はマリアンヌと申します。よろしくお願い致しますね」
「・・・・・・ジェンドゥだ」
嬉しそうに手を合わせるマリアンヌさんと対照的に、ジェンドゥは心底嫌そうな顔で俺を見た。
いや、ごめんて。
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