スリーセブン! 生きるか死ぬかはギャンブル次第!?運が全てを左右する異世界で生き抜く運命が確定した件

名無し@無名

第1話

 

 ◆



『はい、異世界に転移した気分はどうですか?』

「……は?」


 突然視界が暗転したかと思えば、次に意識がハッキリした瞬間に浴びせられた言葉はなんとも素っ頓狂なものだった。

 まだ頭はグルグルするし身体の節々だって痛い。とても話を聞ける状態じゃないのは間違いないだろう。

 しかし、目の前の露出度高めの変な女は矢継ぎ早にこう言い放った。


『深井(ふかい)濱里(はまり)。時間が無いので端的に教えておきます。元の世界に戻りたければ死ぬ気で借金を返済しなさい。あとギャンブル漬けのクソ野郎にワンチャン与えたわたしに毎日感謝の祈りを捧げるように』

「誰がクソ野郎だよ。それに何? 元の世界? 祈りだ?」

『もう時間ですね。わたしの名前はラキナナ、運の女神です。与えたスキルを使って必死に返済しなさいゴミ屑』

「おい今さらっとゴミ屑つったか!? ーーーーうお眩しッッッ!」


 目の奥が痛くなる程の光が広がり、視界が奪われた先に待っていたのはどこかに吸い込まれる様な感覚だった。


「うわ、うおおおおお!」


 慣れない浮遊感が全身を支配する。

 やがてそれは程なくして浮遊から落下という状態に移行し、開かれた瞳に飛び込んできたのは見知らぬ広大な大地だった。


「し、死ぬ死ぬ死ぬ!」


 冗談だろ?

 これじゃあまるでパラシュート無しのダイブじゃないか。仮に湖に落ちたとしても水面に叩きつけられて即死する高さに違いない。


(ああチクショウ、パチスロで五万も負けた上に死ぬのか俺……)


 駆け巡る走馬灯に映るのは数々の戦いの歴史。

 やれ十万勝っただの五万負けただの、職場の連中との話のネタの大半はギャンブルだった。

 三十になっても実家で親の脛を齧り、稼いだ給料を家に入れずにギャンブルに突っ込むだけの人生だった。

 彼女なんて出来たことも無く、生き甲斐と言えば7が揃った時の脳汁だけ。


(はは、やっぱクソみたいな人生じゃん)


 さっきの自称の女神の言葉が胸に刺さるが、これから俺に待っているのはこのまま地面に突き刺さる運命だ。

 せめて死ぬ前に親孝行のひとつでもしておけば良かったと本気で思った。


「死にたく……死にたくねぇええええ!」


 キュイン!


「へ?」


 頭に鳴り響いたのは身体に染みついた聞き慣れた高音だった。

 聞けば脊髄反射で脳汁を生み出すその音が鳴るや、突然背中から翼が生え、無意識に羽ばたきながら地面に降り立つ事が出来たのだ。


「た、助かった……のか?」


 既に翼は消滅しており、ぐっしょりと脂汗で濡れた顔を袖で拭った。


『ふん、流石にしぶといな』

「だ、誰だッ!?」


 どこからともなく声が響く。

 男の声らしいが、機械音が混じった様なノイズ的なものだった。


『引き弱の貴様にしては本当に運が良かったな。あのまま死ぬ確率は九十パーセントを超えていたのだが、僅か十パーセントを勝ち取ったか』

「ぜえ、ぜえ……きゅ……九十パーセントなんかアツいだけで確定じゃねえ。はあ、はあ……俺はその数字を、別に過信しちゃいないさ」

『クク、相変わらずのギャンブル脳という訳か』


 振り返れば、そこには見慣れた機会が鎮座していた。

 小型冷蔵庫くらいの箱に、中央には三つ揃った『七』が虹色に輝いている。


「パチンコ? いやスロットか?」


 よく見るとレバーも無ければハンドルも無い。上皿や下皿すら無いのでどちらの機械か判別が出来なかった。


『我の名はラキナナ様の第一の僕【エンペラー】。親を込めて【エンさん】と呼ぶがいい』

「エン……さん?」

『うむ』


 何言ってんだこのパチ機械は。

 と言いたいが、パチ機もといエンさんから詳しく話を聞けば、俺があの空から落下する状況で生還出来たのはどうやらエンさんの能力らしい。


『ハマリよ、運の女神であらせられるラキナナ様の加護を受けたお前に我の力を行使する権限を与えよう。この魔法や異能が溢れる世界【デステニア】で見事、世界を救いつつ借金を返済してみせよ! ……因みに拒否や失敗はこの世界で野垂れ死にが確約されている』

「……じ、冗談だよな?」

『まあ信頼度的には虹保留ほどだ』

「確定じゃん」

『濃厚と言え』


 拝見、父ちゃん母ちゃん。

 散々親不孝でギャンブル漬けの日々を送っていた俺に待っていたのは、そのギャンブルが命に直結する数奇な出来事でした。

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