第148話 他の二人も呼んでいい

 袈裟斬りを受け、わずかに血が戦場に舞う。


「こっちはいい! 早く道弥を!」


 岳賢が莉世に叫ぶ。


「鈍ったか? だが、次はお前だ。後ろの二人も呼んでいいぜ?」


 八雲は真と莉世を見て言う。


「不要だ」


 道弥は傷を押さえながら返す。


「そうかい。なら遠慮なくいくぜええ!」


 笑いながら剣を振り上げる八雲に道弥は告げる。


「お前こそ鈍ったようだな」


「あ?」


「天裂」


 背後からの黒曜の一閃により八雲が両断され、上半身が宙を舞った。

 その表情は驚きに包まれていた。

 地面に落ちた八雲は大声を上げる。


「なんで生きてやがる! 完全に消し飛ばす威力だったはずだ!」


「道弥が僕のために結界を張ってくれたのさ」


 結界術・土聖結界(どせいけっかい)。

 雷の攻撃を防ぐ時に使われる結界である。

 普通であれば上級陰陽師が大量の人数と霊力を使い展開する結界術だ。

 本来雷を通さないと言われるこの結界越しでさえ、黒曜に大いなるダメージを与えたのは八雲だからと言えるだろう。


「ガハハハハ! 後ろで見守っているとは思ったがそんな援護をしていたのか。一太刀浴びたのも、結界術に気をとられていたからか。負けた負けた!」


 八雲は素直に大笑いしている。

 上半身と下半身が分離していることもあり尚更不気味な光景である。


「俺達の勝ちだな。俺の式神として再び戦え、八雲。お前が望む強者との戦いを提供しよう」


「いいだろう。あんたと居た時の方が、強者と会えたからな」


 素直に八雲は頷いた。

 道弥は呪を唱える。


「臨兵闘者皆陣列前行。我が名は芦屋道弥。芦屋家にその名を連ねる陰陽師也。我が名において、命ずる。八雲よ、我と契約を結び、我が式神と成れ。急急如律令!」


 霊気が八雲を包み始める。


「そこに戦があるのなら、あんたに仕えよう」


 八雲の返答と同時に八雲の全身が白く輝き、閃光が辺りを照らした。

 閃光の後には、まだ二手に分かれた八雲が居た。


「これじゃあ示しがつかねえぜえ」


 八雲は上半身で這うと、自らの下半身の接合部を体に当てる。

 少しして、体がくっついた八雲が立ち上がると、人間形態に戻る。


「今は道弥って言うんだって? よろしく頼むぜ。戦いの時は俺を呼んでくれよなあ」


 そう言って、道弥の背中をばしばしと叩く。


「そういうことだから、お前等も道弥に従うように。俺は楽しんだからもう寝るぜ」


 八雲はそのままその場で寝てしまった。


「なんと品がなく、自由な男でしょうか」


 莉世が呆れたような口調で言う。

 終わったのだと感じた岳賢が、道弥の元へやって来た。


「命を救われたな、道弥よ。感謝する。この恩は決して忘れないと誓おう」


 そう言って深々と頭を下げる。


「一級陰陽師にそんな感謝されると照れますね。恩はいつか返してもらうので気にしないで下さい。」


「お前なら一級陰陽師などすぐだろうに。強いとは思っていたが、ここまでとはな。あれほどの妖怪を調伏するとは、もはやお前に並ぶ陰陽師は存在しまい」


「だと、良いんですけどね」


 その後ろから道弥を見る天真の姿があった。


「お前はいったい、何者なんだ?」


 天真は得体の知れない者を見るような顔で言う。


「ただの芦屋家の跡取りさ」


「……そうか。今回は助かった。ありがとう、芦屋道弥」


 どこか悔しそうに天真は頭を下げる。

 理屈で分かっていても、尊敬する岳賢より強い自分より年下が居るとは信じきれないのだ。


「だが、お前には負けんぞ!」


(なんでライバル視されているんだ?)


「そうか、頑張れ。それより岳賢さん、お願いしたいことが」


 道弥は岳賢にその内容を話し始めた。

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