第147話 激突

 八雲に劣らない巨体の背中には漆黒の翼が見える。

 八雲は一瞬で黒曜へ距離を詰めると、刀を振るう。

 黒曜は受け止めたにも関わらず、地面が割れる。

 地面が裂け、瓦礫が舞う。


「やったかあ? いや、殺しても死なねえような男だった、あいつは」


 八雲はもう片方の刀を振るおうとした瞬間、道弥が呪を唱える。


「水行・水閃すいせん


 道弥から放たれるは水の閃光。

 弾丸のようにその一撃は八雲の脇を抉る。


「そんな下級術で俺を傷つけられるのはあんたくらいだが、さっき似たようなのを喰らってんだよ!」


 八雲はそのまま黒曜に横薙ぎの一撃を放つ。


風衣かぜのころも


 黒曜は空間を掴むと、そのまま歪ませた。

 それにより、八雲の横薙ぎが上に逸れる。

 お返しと言わんばかりに、次は黒曜が横薙ぎを放った。


「ちっ!」


 八雲は左の刀を地面に突き刺し、その横薙ぎを受け止める。

 再び地面がその衝撃で砕けた。

 その攻防に岳賢が息を呑む。


「なんというレベルの戦いだ……鞍馬天狗に酒呑童子。この戦いは歴史に名を残すぞ」


「楽しいなあ。ずっとこうやって戦っていたいがよぉ、体がはしゃいじゃって我慢できねえ。上げるぜ、更に!」


 その言葉と共に、八雲の全身に紋様が刻まれる。

 鬼装術・阿修羅相あしゅらのそう

 鬼族が自身の身体能力を底上げする奥義ともいえる技である。

 全身から溢れる妖気に雷がその危険度を告げている。


地獄雷じごくらい


「天裂」


 八雲の手から放たれる黒い雷を、黒曜は剣閃で受け止める。

 だが、その一撃により、黒曜の体が真っ黒に焦げる。


「焼き鳥だなあ」


 だが、黒曜にそれをものともせずに突きを放つも八雲はそれをぎりぎりで躱す。


「なんてな。油断はしねえよ!」


 八雲の動きが更に加速する。

 阿修羅相の最大の特徴は全身に雷を纏わせることによる反応速度の向上にあった。


「ついてこれるか?」


 人の目ではもはやついていけないほどの速度で移動する八雲に、真っ向から張り合う黒曜。


「僕に速度で勝てると思ったら大間違いだ」


 剣が交差する音だけが響く。

 剣術の僅かな技量の差。幼少期の牛若丸に剣術を教えていたと言われるその鞍馬天狗の卓越した技量は、八雲の一撃を逸らし、流した。

 八雲の一撃が地面に刺さる。


「風断」


 黒曜の風を纏った横薙ぎを、八雲が受け止める。

 剣を受け止めることはできても、その風までは受け止めることはできずに、八雲を斬り裂いた。

 明かな深手。

 だが、八雲は倒れることなく踏みとどまり笑う。


「効くぜえ」


 八雲はそのまま刀を振り下ろした。

 力を上手く流せずに受け止めた黒曜は、地面に思い切り叩きつけられた。


「ぐぅっ……!」


 八雲は刀を再度上げると、全ての妖気をその一刀に集中させる。

 皆、その妖気から戦いの終わりを感じとった。


百鬼雷轟ひゃっきらいごう


 黒い雷を纏った刀が振り下ろされる。

 それに合わせて黒曜も必殺の技をきる。


天裂てんさき迅嵐じんらん


 お互いの渾身の一撃が交差する。


(まずい……!)


「莉世、真!」


 道弥は叫び呪を唱える。

 その妖気の衝突は凄まじく、そして爆ぜた。

 先ほどまでの戦いでも地形は変わっていた。

 だが、今は戦場であった山が消えたのだ。


 周辺が全て消し飛び、焦げた荒地だけが残っている。

 菅原家の面々は莉世と真が守っておりなんとか生きているようだ。

 砂埃が去った後、そこには片腕が消し飛びぼろぼろとなった八雲が笑いながら立っている。


「油断しすぎじゃねえかあ?」


 次の瞬間、道弥が結界ごと斬られた。

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