第142話 花火

 木が燃えることで更に蒼炎が燃え上がる。檻が朽ちると同時に、ゆまが霊力を込め再び檻を再生させることで、燃料とする。

 暴れる長を必死に抑え込むゆま。


「キュウウウウウ!」


(霊力がもう余りない……)


 ゆまの考えを示すように、檻に再びヒビが入る。

 そして、遂に燃え盛る檻の中から長が飛び出してきた。

 全身が燃え顔は皮膚がむき出しで、怒りで目が充血している。


「もう駄目よ。ゆま、逃げて!」


 弥胡がゆまを逃がそうとする。


「逃げないわ、もう。来い!」


 ゆまは護符を取り出すと、結界を展開する。

 結界と長が正面衝突する。

 ゆまはその衝撃で大きく後退させられた。

 だが、次は耐えきった。


「さっきより随分威力が弱いわね。言ったわよね? 効くまで何度でもくらわせてあげるって! 火行・朱雀!」


 ゆまはむき出しになった顔に思い切り朱雀の炎を叩きこんだ。


「キュウ……!」


 ぐらりと崩れた長は、そのまま静かに消えていった。

 ゆまは倒れそうになるのを堪えて、カメラに目を向ける。


「随分苦戦しましたが、なんとか旧鼠の長を祓いました! 以上、雲母坂ゆまでした! この後は部下の旧鼠を祓うことになると思います。これからも応援よろしくお願いします!」


 そう言って、ゆまは手を振る。

 道弥はカメラを止める。


「誰よりも格好良かったよ、ゆま」


「当たり前!」


 ゆまはそう言って笑う。

 道弥は手に炎を宿すと、天に向かって放つ。その炎は明後日の方向に消えていった。


「あんた何しているの?」


「おめでとうの花火?」


「全然綺麗じゃないんだけど? どこか飛んで行ったし」


「綺麗な花火は陰陽術じゃ無理だろ? それに……これ以上の戦いは無粋というものだ」


「どういうこと?」


 ゆまは首を傾げると、すぐに体をぐらつかせる。

 それを道弥は受け止める。


「無理したな。すぐに治療してやる」


 そう言われたゆまの顔はほんの少しだけ赤かった。

 痛みのせいか、それとも……。




 道弥達の居た山の裏側を、妖怪・ムチは必死で駆けていた。


(作戦は失敗だ。もう旧鼠は数匹しか生き残っていない。五千を越える旧鼠がだぞ!? あれほど時間をかけて準備をしたのに。長もやられた。どれほどの化物が島に来ているんだ?)


 ムチは島からも出て、しばらく潜む予定であった。


(この島はもう駄目だ。他の場所を……え?)


 ムチは上空から流星の如く降り注ぐ炎を見て呆然と空を仰ぐ。

 その炎は追尾するようにムチに直撃した。


「ぎゃあああああああああああああああ!」


 全身が焼かれる激痛。

 明らかに自分より格上が放ったであろう炎に焼かれたムチは、動くこともできなくなった。


(いったいどこから……? いったい何が!?)


「あら? 既に死にかけてますわね?」


 既に死期を悟ったムチの元に、莉世が姿を見せる。


「お前が……やったのか?」


 息も絶え絶えに、ムチが尋ねる。


「私ではありませんわ。我が主が遠くから狙ったようですね」


「馬鹿な!? 裏側から狙っただと!?」


「その程度、主なら余裕です。お前如き、雑魚。わざわざ出向く価値などないということです」


 実際の道弥は、ゆまに気を遣っただけなのだが、そんな事情ムチは知る由もなかった。

 莉世の言葉を聞いたムチが叫ぶ。


「ぐう……陰陽師の犬如きが! 俺を倒していい気になっているが、これからは俺達妖怪の時代が来る。お前の好きな主も、他の人間も皆殺される! それまで精々――」


 次の瞬間莉世がムチに止めを刺した。


「雑魚が騒ぐんじゃなりませんよ。道弥様を殺せる人間などいやしませんのに。それに……道弥様以外の人間がどうなろうと私には関係ありませんもの」


(なにか情報を得られると思いやってきましたが、殺してしまいましたね。あの程度の者は大した情報など持っていませんよね)


 莉世はそう考えると、静かにその場を去った。

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