第141話 火力がないなら
沈黙が結界内を支配する。
そんな時、煙の中から動く気配をゆまが感じ取り咄嗟に目の前に結界を展開する。
煙の中からこちらへ突進してきたのは旧鼠の長。
その顔には大きなやけどを負っている。
だが、それでもその動きを止めることはできなかったようだ。
「ゆま!?」
弥胡はすぐさまゆまの元へ走るが、長の動きの方が速かった。
長の突進を受けたゆまは、まるで車に撥ねられたかのように宙を舞う。
骨が軋む鈍い音が結界内に響く。
(えっ!? なに!? なにがあったの? 全身が痛い……)
地面に叩きつけられたゆまは一瞬意識が飛んだ。
まるで高速で回転しているかのように、ぐるぐると回っているような錯覚を覚える。
長は勝利を確信したのか、呑気に倒れ込むゆまを見ていた。
(強い……勝てない! やっぱり私程度じゃ勝てないんだ。吐きそう。体が動かない。格好良く勝つ予定だったのに、これじゃ駄目ね。私が倒れても、道弥が居る。代わっても……)
ゆまはちらりと道弥を見る。
道弥は真剣な顔でゆまを見ていた。
「見てるぞ」
道弥の言葉を聞き、ゆまは自らの考えを恥じた。
(違う! ここは私の舞台なんだ。誰にも、道弥にも譲らない。私はアイドル。アイドルとして、あいつに勝つんだ)
ゆまは軋む体で立ち上がると、カメラに向かって微笑む。
「中々強いですねえ。流石は長といった所でしょうか? けど、アイドルは……決して負けないのよ?」
(足にきている。長期戦は無理ね。どれだけ痛くても、スマイル。だってアイドルなんだから)
「行くわよ、弥胡」
「ゆま……大丈夫?」
「まだまだ踊れるわ」
(狐火と朱雀を重ねても、火力が足りなかった。他の手がいる)
旧鼠の長は、まだ動くのかと言わんばかりにチューチューと鳴いている。
「狐火」
「火行・火雀!」
遠距離から攻撃を放ちながらも、距離を取る。
長の攻撃を躱す度に激痛が走る。
(いったああい!)
ゆまのおでこには冷や汗が浮かんでいる。
(けど、決して諦めない! 火力が無いなら上げればいい!)
「弥胡、もう一度蒼炎を!」
「でも……」
「私を信じて!」
真剣なゆまの声色に反射的に弥胡が頷く。
長が再びゆまを狙い、疾走する。
「狐火・蒼炎!」
再び蒼い大炎が放たれたが、長は減速することなく加速する。
ゆまは護符を取り出すと、呪を唱える。
「臨兵闘者皆陣列前行。木行・
長の突進を阻むように木々の木製の柱が大量に生える。
長と柱が激突し、轟音が響く。
(ここで終わるか!)
ゆまの霊力が一気に護符に吸われると共に、柱の強度が上がる。
それと同時に長を閉じ込める様に木製の檻が地面から生える。
「キュウッ!?」
閉じ込められたことに気付くが、もう遅い。
その檻を蒼炎が包む。
「キュウウーーーー!」
長の悲鳴が響く。
四方八方が蒼炎に包まれた長が必死に暴れる。
「木はよく燃えるのよ。だけど、決して逃がさない」
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