第139話 報われて欲しいと
「ねえ、道弥。なんでここまでしてくれるの? あんたが仕留めれば終わりじゃん」
戦いへの準備をしながら、ゆまが道弥に尋ねる。
「自分を責めていたが、ゆまは努力していたんだろう? 護符や、丁寧な詠唱を聞けば分かる。確かな努力をしてアイドルと陰陽師をこなしていたのなら、報われても良い。そう思ったんだ」
道弥は遠くを見ながら言った。
「何よー、年下の上に生意気! でも……ありがとう」
ゆまは最後小さな声で呟く。
「お礼は出世払いでいいぞ。長はゆまに任せる。周囲の旧鼠は気にするな。俺が結界を張るから村にまでは流さない。おしゃべりは終わりだ。既に他の所では戦闘が始まっているようだ」
道弥の言葉通り、他の場所では妖狐達と旧鼠の戦闘が始まっていた。
銀の長髪を靡かせる妖狐の男は、その手から狐火を放ち、既に数十の旧鼠を葬っていた。
「こんな雑魚共如き俺の敵ではない」
(もっと仕留めたら莉世様も俺を見直すかもしれん。旧鼠の死体の山を築くのだ!)
男は張り切ると、旧鼠を仕留めるため走り始めた。
どの妖狐も旧鼠より格上であり、一方的な蹂躙により数を減らしている。
一方、莉世は既に銀髪の男のことなど忘れていた。
(数百メートル先から千匹ほどの旧鼠が長と共に来ますわねえ。なんで私が小娘の舞台を整えないといけないのかしら?)
「道弥様、数百メートル先に長とその手下が来ますわ。どうします?」
「映像として残したい。そのまま流せ」
「承知しましたわ」
少しして山の前方から砂煙が立ち昇るのが見えた。
「ゆま」
道弥はカメラを起動されると、ゆまを映す。
「皆さん、おはようございます。先日、我々は島の怪奇現象を探りその原因である旧鼠を発見致しました。その後、更に捜査を進めた結果、島に大量の旧鼠が蔓延り島人を襲っているという事実が明らかになりました」
少しずつ旧鼠が地面を駆ける音が聞こえてくる。
「我々は捜査の最中、カメラでは映せないような光景も目の当たりにしました。本島に応援を呼ぼうかも考えました。ですが、既に旧鼠の数は五千を越えており、早急の祓除が不可欠と判断しました。ですので、今日はアイドルとしてだけでなく、陰陽師として旧鼠の長を祓おうと思います皆さん、応援よろしくお願いします!」
ゆまはそう言うと、カメラに向かって笑顔で手を振る。
その後ろには地面を埋め尽くすほどの旧鼠がこちらに走ってきている。
その中心には明らかに一匹だけ巨大な旧鼠の長が居た。
「あの数が見えるでしょうか! 中心に居る旧鼠が長です! 既に結界を張り村まではたどり着けないようにしてありますので、ご安心下さい。では、鼠狩りを始めます」
(道弥は勝てるって言ってたけど……勝てるの? この間のより強いんでしょ?)
ゆまは笑顔で話していたが、内心はその巨大さに恐怖を感じていた。
(想定より育っているな……)
道弥は小さな汗をかいた。
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