第138話 派手にいこう
(え?)
ゆまはドアノブを掴む直前、体が硬直する。
血の気が引いた。目の前が真っ黒になり、地面が揺れるような感覚。
その言葉の主がりんねだとは思えなかった。
だが、それがりんねの声であることは、傍で良く聞いていたゆまにはよく分かった。分かってしまう。
「分かるー。化物に顔傷つけられたらいいのにね。そうなったら、引退でしょ!」
その声も良く知っているメンバーの声だった。
「可愛くないから、あんな色物にならないとテレビ出られなかったのよ」
手が震えた。
それ以上聞きたくなかった。
ゆまは結局、その後すぐに事務所を出て自宅に帰った。
部屋に籠り、電気も消えた天井を呆然と見つめる。その頬には涙の跡があった。
色々な考えが、ぐるぐると脳内を支配する。
(皆、応援してくれていると思っていた。全部、嘘だったんだ。私のこと馬鹿にして笑っていたんだ。誰も信じられない……)
これからどうしようと考える。
(もう辞めたいな……)
自分が辞めたいのか、逃げたいのかも分からない。
(いや、逃げるもんか。馬鹿にした奴等より絶対上に、一位になってやる)
ゆまが本気で一位に執着し始めたのはこの時からであった。
◇◇◇
ゆまは過去を思い出した。
「ファンのためなんて高尚な志なんて何一つなかった。アイドル活動を私なりに頑張っていたけど、陰では馬鹿にされ笑われていたの。一人尊敬していた先輩がいたんだけど、その人にすらね」
自らを嘲るように言う。
「陰陽師アイドルなんて色物だってさ。私は一位になって笑っていた奴等を見返したかっただけ。情けない」
(そんな自分が嫌だった。ただファンのためだけに頑張る人になりたかった)
だが、道弥の返事はゆまの予想とは違うものだった。
「何も情けなくない。辛かったのに折れずに今まで頑張って来たんだろう? だからこそ、今チャンスを掴む所まで来れたんだ。見返したい? 上等じゃないか。馬鹿にされたまま、それを我慢しながら生き続けるなんてごめんだ」
それは道弥の心からの言葉だった。
自らも酷い境遇にあり、復讐のために努力を重ねた道弥だからこその言葉である。
「私は……見返すために頑張っていいんだ」
(こんな理由じゃ誰も認めてくれないと思っていた。そう、私はこの気持ちを、怒りに蓋をして生きるのなんてごめんだ)
「私は誰よりも人気になってあいつ等を、私を馬鹿にして笑った奴等を見返したい! それを叶えて初めて私は、前に進めると思うから」
ゆまは自分の負の感情を正しく理解し、そして正しく昇華した。
その目は未来だけを見据えている。その様子を見て、道弥は笑う。
「なるほど。なら誰よりもかっこいいところを見せて、皆を惚れさせてやろうじゃないか。派手に行こう」
「うん!」
ゆまの戦いが始まる。
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