第136話 どうして?
別にお前に認めてもらわなくてもいいんだけど……と思っていると、莉世が凄い形相で男の後ろに回り込む。
「誰に向かって口を利いているんだ、お前?」
莉世はそのまま男の頭を掴むと、地面に叩きつける。
そして莉世の手に炎が宿ると、男の全身が炎に包まれた。
「ギャアアアア!」
男の悲鳴が山に響き渡る。
数秒で男が真っ黒になっている。
「お前……仮にも同族だろ?」
「大丈夫です。妖狐は火に強いので」
莉世はそう言うと、男の頭を無理やり持ち上げる。白目を剥いているが生きてはいるようだ。
莉世は男を上下に振り、強引に目を覚まさせる。
「私の主と言うことは、お前の主でもあるに決まっているでしょう?」
「は……はい。おっしゃる通りです。すみませんでした」
男は死んだ顔で俺に謝罪する。
こういうあほ定期的に居るなあ、と呑気に考えていた。
長老的な妖狐が俺に頭を下げる。
「道弥様、大変失礼いたしました。こいつはずっと九尾様、いえ莉世様に憧れているのです。九尾まで到達された莉世様に憧れぬ妖狐などおりませんから」
その言葉に妖狐達が頷いている。
「強火オタクってことね……」
とゆまがぽつりと言う。
「まあ、良いです。皆さん、各自島中に散って島民を旧鼠から守りなさい。妖狐として、旧鼠如きに遅れは取るんじゃありませんよ?」
「「「「はい!」」」」
莉世の言葉と共に妖狐達は島中に散っていった。
「凄い……」
莉世の様子を見て、ゆまは小さく呟く。
「俺達も行こうか」
俺達も動くことにする。頭を潰さないと、きりがないからな。
山を登るも昨日と違ってゆまが大人しい。
撮影のために私が戦うと言い出すと思っていたが。
心なしか凹んでいるようにも見える。
「今日は本当に旧鼠の長と戦うことになるが、どうする?」
「……どうせ私じゃ無理よ」
なぜかすっかり自信を失っている。
「なんで落ち込んでいるんだ?」
「あんな偉そうにあんたに話していたのに役立たずな自分が情けなくて。やっぱり本物は違うのね」
年齢や副業であることを考えると十分だと思うが。
「本業はアイドルだろう?」
別に俺は陰陽師だけが生き方だとは思っていない。アイドルも皆の心を救う良い仕事だと思う。
「アイドルでも同じよ。私だって初めは、自分は誰よりも輝けると思っていたわ。けど、そんなことはなかった。私はアイドルで一番になれなかった!」
ゆまは気持ちが溢れ出したかのように叫ぶ。その目には小さく涙が溜まっていた。
「ゆまはどうしてアイドルで一番になりたいんだ?」
「なんでってそりゃあ……。あれ、私ってなんで一番になりたいんだっけ?」
ゆまは小さく呟いた。
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