第135話 眷属()
「誰よ、あん――」
弥胡は莉世を見て、言葉を失う。
「今、私に何か言いました?」
冷たい表情を浮かべる莉世に、弥胡が震え始める。
「あ、あの……えーっと……」
弥胡は必死に言葉を探している。
突然の莉世の登場にゆまも混乱していた。
「あの……誰? 弥胡は彼女を知っているの?」
「駄目、ゆま! このお方に逆らっちゃ! 彼女は……九尾。妖狐界の頂点にいらっしゃるお方! 九尾様、誠に申し訳ございません。どうかお許しを」
弥胡は地面に頭をこすりつける勢いで頭を下げている。
「え……そんな凄い大妖怪がなぜこんなところに?」
「私は道弥様の式神です、小娘。弥胡とやら次はありませんよ、分かりましたね?」
「はい! ありがとうございます!」
ゆまは驚いた顔を浮かべながら俺の方を見る。
「莉世は俺の式神だよ。莉世、眷属はどこに居るんだ?」
眷属が居ると言っていたが、未だに姿がない。
「今、捕まえてきます!」
莉世が笑顔で言う。
捕まえてきます?
どういうことだ?
莉世はおもむろに森の中へ入っていった。
眷属って捕まえるものじゃなくない、とか色々突っ込みどころはあるが大人しく皆で待つ。
「弥胡、あの綺麗な人が本当に九尾の狐なの?」
「本当よ、間違いないわ。あの圧倒的な妖力、昔一度まであの方を見たことがあるの」
「そうなんだ……」
ゆまと弥胡がこそこそと話していると、莉世が戻って来た。
その手にはぐったりした妖狐が一匹捕まっている。
莉世はその妖狐を放すと、口を開く。
「貴方、ここ付近を縄張りにしている妖狐でしょう? 今すぐ全員集めなさい」
「はい、分かりました!」
良い返事である。
捕まっていた妖狐は凄まじい速さでその場から消えていき、三十分後には百近い妖狐がその場に集まった。
「お久うございまする、九尾様」
皆人間に姿を変えており、莉世に対して跪いて深々と頭を下げている。
「この島のどこにこんなに妖狐が居たんだ」
「本島からも呼びました」
俺の疑問にさきほど捕まっていた妖狐が答える。
すると他よりも年を取っていそうな妖狐が莉世の前に姿を見せる。
「九尾様、五百年ぶりでしょうか。たまには里に姿をお見せ頂けると嬉しいのですが。長老も会いたがっておりましたぞ」
「今は道弥様から莉世と言う名を頂きました。今後はそう呼びなさい。里になど用はありません。今から旧鼠狩りを始めるので、手伝いなさい。いいですね?」
「勿論でございます」
何て暴君なんだ……。
しかも彼等おそらく眷属じゃない。そこら辺に居る妖狐を無理やり働かせているだけだ。
莉世はこちらを見ながら両手を広げてはにかむような笑顔を浮かべている。
「揃えてまいりました!」
「流石だな、莉世。ありがとう」
その言葉を聞いて、莉世は満足そうに笑う。
俺は指摘できなかった。
その中の一匹の妖狐が立ち上がると、俺の元へとやってくる。
銀の長髪を腰のあたりまで下ろした若い男の姿をしている。
「人間如きが九尾様の主だと!? 俺は認めないぞ!」
と男が吠える。
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