第131話 群れの長

 どうやら何を言っても駄目のようだ。


『別に良いのではありませんか? あの女が鼠に殺された所で、全く影響はありませんでしょう?』


『あるわ! 面倒な依頼引き受けちゃったよ、本当』


 莉世が苛々した声色で、毒づく。

 彼女は今回、見た目が目立ちすぎるため顕現させていない。

 全国ネットに流れると、面倒だからだ。

 そのまま俺達は廃校を回る。


 そして少しずつ階段を上がり、三階の音楽室に辿り着いた。

 ゆまも妖気を感じ取ったのか、真剣な声色をしている。


「臨兵闘者皆陣列前行。全てを守る壁をなりて、皆を守らん。結界術・宵壁よいかべ。急急如律令!」


 ゆまは結界で音楽室を包むと、扉を開ける。


「かかってきなさい! 旧鼠達!」


 俺が火の玉を音楽室中に浮かべ、中を照らす。

 そこには百を超える旧鼠に、他の個体より明らかに大きな旧鼠が混じっていた。


 全長二メートルを超える巨大な鼠。他と違いまるで鋼鉄のような前歯が暗闇の中でも光っていた。その巨体の足元には人骨と思われる骨が落ちている。

 その姿に一瞬ゆまが息を呑む。

 ゆまを見た旧鼠達が一斉に襲い掛かる。


弥胡やこ、お願い!」


 ゆまは焦りながら呪を唱える。

 すると、妖狐が地面から現れた。

 一本の尻尾を持つ綺麗な白い毛並の妖狐。

 弥胡と呼ばれた妖狐は、その一本を巧みに使い襲い掛かる旧鼠を弾き飛ばす。

 そして、周囲に生み出した狐火で旧鼠達を焼いた。


「ギュイイイ!」


 肉の焦げた臭いが、周囲に広がる。

 弥胡を見た大きな旧鼠は警戒心を上げた。


「火行・火雀ひすずめ!」


 ゆまは再び火の鳥を生み出すと、周囲の旧鼠に放つ。

 周囲に牽制をした瞬間、弥胡がその爪で大きな旧鼠に襲い掛かる。

 その爪で切り裂かれるも、長も一歩も退かずにその前歯で弥胡の前足に噛みつく。


 弥胡は小さなうめき声をあげるも、その尻尾を思い切り振り上げ、長に叩きつけた。

 地面に叩きつけられた長は頭突きを弥胡に決めると、距離を取る。


「勝てるわよ、弥胡! 一気に決める! 火行・鳳仙火ほうせんか!」


 ゆまの護符からいくつもの火の玉が弾丸のように放たれる。

 それに合わせて、弥胡も長に向かって走った。


「キー、キー!」


 長が突然鳴き声を上げる。

 それと同時に周囲の旧鼠が積み上がり、長を守る壁となった。手下達は鳳仙火に焼かれようとも、その場から逃げることはなかった。


「なっ! 手下を盾に逃げるつもりね! 弥胡、突き破りなさい!」


 弥胡が尻尾を槍の様に放ち、壁に叩き込む。 その一撃は旧鼠の壁を貫くも、崩れることはなく弥胡の動きが止まる。

 弥胡が再度陰陽術を唱えようと詠唱を始めた瞬間、旧鼠の壁から長が凄まじい勢いで顔を出す。

 その鋭い前歯が弥胡の首に深々と突き刺さる。

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