第130話 廃校へ
夜になった俺達は、怪奇現象が起こった原因を探るべく廃校へ向かった。
島の夜は光がなく、照らすのは月の光と懐中電灯のみとなっている。
「道弥、先に歩きなさい。先陣を切るのを許すわ」
そう言ったゆまの腰はどこか引けている。
怖いなら昼に行けば良いのに。
「構わないが、敵の数が複数であればあらかじめ学校を結界で覆った方が良いのでは? 逃がすと面倒だ」
「大丈夫よ。戦闘中はしっかりと結界を張って閉じ込めるから」
ゆまはそう言って俺を後ろから押す。盾にするな。
廃校は俺達の想像よりはるかにボロボロだった。
ガラスは割れ、コンクリートでできているはずの壁には妖怪に破壊されたのかいくつも穴が空いている。
中に入った瞬間、散った蛍光灯の破片を靴が踏んだ音が静かな廃校に響く。
「それでは怪奇現象の原因を探るべく廃校を捜索したいと思います! 雰囲気がありますねえ」
ゆまは懐中電灯で行く手を照らすと、俺が前を進む。
「今回は最近話題の新人陰陽師芦屋道弥君にも来てもらっています!」
俺は軽くカメラに向かって挨拶をした後、前を向く。
奥に行くにつれ妖気を感じる。
『この空き教室に、一匹居ますなあ』
真の耳打ちが響く。
どうやらこの空き教室に居るらしい。
「空き教室に居る。どうする?」
俺の言葉を聞き、ゆまが笑う。
「皆様、ついに怪奇現象を起こした妖怪を見つけました。早速祓っていきましょう!」
ゆまはそう言うと、護符を取り出す。
達筆に書かれた護符にはしっかりと霊力が込められている。
「
丁寧な、それでいて落ち着いた詠唱だった。
今までの雑な雰囲気とは違う、真摯に陰陽術を学んだことが分かる詠唱。
ゆまの呪と共に室内を囲うように結界が展開される。
「行くわよ」
ゆまは室内に入ると周囲を懐中電灯で照らす。
するとゆまに襲い掛かる影が。
咄嗟にゆまは護符を前に出す。
「守護護符よ、その力を示し、我を守護せよ!」
護符から結界が張られ、敵を弾く。
「その正体、見せてもらうわよ!」
ゆまが懐中電灯で敵を照らす。
するとそこに居たのは化け猫ではなく、中型犬ほどの大きさの鼠(ねずみ)の妖怪。
鼠が年月を経て妖怪に変化したものと言われている。
江戸時代の奇談集『絵本百物語』にも旧鼠に関して記載がある。
その伝承は様々で猫を育てたという記載から、猫を喰らうもの、人を害するものまで様々だ。
鼠と特徴をしっかりと引継ぎ、瞬く間に数が増えることから強さよりも全滅されることの難易度の高さから有名な妖怪だった。
「化け猫じゃない……!? けど、同じよ! 火行・
ゆまの周りに雀の形を象った火が複数浮かび上がると、そのまま旧鼠に放たれる。
「ギュウッ!」
複数の火に焼かれた旧鼠が悲鳴を上げる。
しばらく暴れた後、旧鼠は動かなくなった。
「怪奇現象の正体は、旧鼠だったようです。旧鼠はその増加速度が有名な妖怪です。おそらく長がこの廃校に居るはず。長を祓い、島を救いたいと思います!」
そこでいったんカメラを切る。
「行くわよ。旧鼠だったけど、計画に支障はない」
「旧鼠なら数も多い。怪奇現象の原因も特定したんだ。ここで戻ってもいいんじゃないか? もう十分だろう」
旧鼠は強さは四級陰陽師でも戦えるレベルであるが、全滅となると話が違う。
上級陰陽師以上の実力が必要となる。
「なによ、あんた。旧鼠程度にビビっているの? さっきも私がすぐに祓ったでしょう? 一匹だけなんて……中途半端が一番良くないのよ。次の戦いもあんたは参戦するんじゃないわよ。それに……この程度じゃ全く十分じゃないのよ」
ゆまは顔を引き締めると、そのまま部屋を出て進みはじめる。
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