第128話 菅原岳賢VS酒呑童子

(こいつがやはり一番強いな……)


 岳賢を見て、茨木童子が思う。


「酒呑童子! お前の望みは強者との戦いだろう! なら差しでやろう。決着がつくまで部下に手出しはやめてもらおう」


 岳賢は大声で酒呑童子に頼む。

 部下達を無駄に死なせたくない故の交渉。今までの言動から交渉の余地はあると考えていた。


「手出しもなにも、お前が連れてきたんじゃねえかよ」


「差しは怖いか?」


「まあいいぜ。お前の安い挑発に乗ってやるよ。茨木童子、手をだすな。その代わり、お前が逃げた場合ここ一帯の人間を滅ぼす」


「誰が逃げるか」


(逃げるのを封じられたか。いよいよ、危ういな)


はく。エン、行くぞ」


 岳賢の横に侍るは二匹の式神。

 全長五メートルはある巨大な白狼、はく

 初雪を彷彿とさせる真っ白な毛並に、鋭い赤目が酒呑童子を見据えている。


「岳賢ったら、いつも無理させるんだから」


 白は嬉しそうに言う。

 もう一匹は全長六メートルはある巨大な大鬼(おおおに)、エン。

 その手には金棒が握られている、黒鬼である。


「酒吞童子ィ!? 大物すぎるだろ! 本気か? 一合とて打ち合える気がせんぞ」


 その厳つい顔とは裏腹にすっかりビビっていた。


「エン、文句を言うな」


 酒呑童子はそこらへんに落ちている部下の刀を手に取ると、岳賢を見据える。


「行くぞ~。よいしょっと」


 気の抜けた言葉とは裏腹に酒呑童子は一瞬で距離を詰めると、刀を振るう。


りんぴょうとうじゃかいじんれつぜんぎょう! 守護護符よ、その力を示し、我を守護せよ。 急急如律令きゅうきゅうにょりつりょう!」


 岳賢が自分を守るように結界を展開する。

 酒呑童子の一撃を受け止めるが、その結界はすぐにヒビが入る。


(防ぎきれぬか……!)


「エン!」


「畜生、無理言いやがって! 地獄打ち!」


 岳賢の命令に応え、エンは渾身の魔力を金棒に宿すと、酒呑童子の一刀を横から弾くように振るう。

 結界が砕けた瞬間、エンの横打ちが僅かに酒呑童子の攻撃の軌道をずらす。

 酒呑童子の刀は岳賢からわずかにそれ、地面に触れる。


 その一撃により地面が大きく裂かれた。


「ぎゃあああ! 腕が折れたあああ!」


 エンは両腕を見ながら大声を上げる。

 一方逸らされた酒呑童子は大きく笑っている。


「ハハハ、やるじゃねえか」


「よくやったわ、エン」


 酒呑童子の首を狙い、白が襲い掛かる。


「臨兵闘者皆陣列前行。水行すいぎょう水連槍すいれんそう!急急如律令!」


 白に呼応するように、岳賢は呪を唱える。

 それにより地面から五つの槍が酒呑童子に放たれた。


「良い連携だ。飛雷」


 酒呑童子の頭から生えた日本の角から雷が放たれ、槍も白も地面と共に吹き飛ばされた。

 爆煙の中から堂々と立つ酒呑童子が姿を見せる。


「白、大丈夫か?」


「まだ、ね」


 爆風に吹き飛ばされた白が体をあげる。


「もう帰っていい?」


 一方、大鬼であるエンは両手を挙げて降参のポーズをとっている。


「駄目だ。折れてないだろう、お前」


「ちぇっ」


(ただ一合打ち合うだけでこの疲労。基本スペックが違いすぎる)


 軽口を叩きながらも岳賢は頭を働かせ続ける。

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