第127話 菅原天馬という男

 玄六は霊力を使い切ったのか、膝をつき、肩で息をする。


(油断しておったから、なんとかなったようなものだ)


「中々やるじゃねえか、あの爺さん」


 岳賢と戦闘中にも関わらず、呑気に酒呑童子が拍手をしている。

 すると、先ほど茨木童子が居た所から轟音と共に天まで届く雷が放たれた。

 地面から現れた茨木童子は服こそぼろぼろになっているものの、体に傷らしい傷は見当たらない。


「これが秘策か。幾重に罠を張って、計画を練り頑張ったか? 愚か。もう影は出さないのか?」


 淡々と話しかける茨木童子と対照的に、玄六は絶望に包まれていた。


(やはり……勝てぬか。無念。岳賢と酒呑童子の戦いも終わっておらぬ。ここまでか)


 玄六の諦めを察した茨木童子は静かにその手に雷を纏わせる。


「死ね」


 茨木童子の手から雷が放たれた時、玄六の元へ飛び出す姿があった。

 天真は玄六を捕まえると、そのまま雷を躱す。


「天真!? 何を!」


「俺が相手だ、くそ女!」


 天真は二人の間に入るように位置取ると、茨木童子に言い放つ。

 だが、言葉とは裏腹に体は震えて、顔からは恐怖が見て取れる。


「ふっ。真っ青になって、震えているじゃないか。怖いのだろう? 逃げるのなら追わんぞ、坊や」


 馬鹿にするように言う茨木童子。


「全く怖くなんてねえよ。俺の方が強いからな」


「止めい、天真! お前はもう逃げろ!」


「爺ちゃん、諦めるなよ。岳賢様だって戦っている。まだ終わってねえだろ!」


(俺が勝てる訳ねえよなあ。逃げりゃあ良かった。けど、岳賢様や爺ちゃんが戦っているのに俺だけ逃げれる訳ねえだろ)


 天真は死を覚悟して、呪を唱える。


「お前達、行くぞ」


 天真は黒い狼と、中鬼を顕現させる。


(一分でも、二分でも時間を稼ぐ!)


 天真は護符を持つと、自らも式神と共に茨木童子の元へ向かう。

 茨木童子は大した興味もなさそうに、その手を振るう。

 すると、狼も、中鬼もはじけ飛んだ。


「え?」


「子供の遊びに付き合うほど暇じゃないんだよ」


 茨木童子は苛立ったような口調で言うと、天真に蹴りを放つ。

 骨が砕ける鈍い音が戦場に響く。


「ガハッ!」


 天真は蹲ると、口から血を吐いた。


「運が良ければ勝てると思ったか? 圧倒的な力の差も理解できないから死ぬんだ」


(お前が俺よりはるかに強いことくらい知っていたさ。岳賢様、時間稼ぎすらできなくてすみません……)


 結局自分如きが動いても何も変わらなかったか、と思いつつも天真に後悔はなかった。

 茨木童子がとどめをさそうとした瞬間、大砲のような水弾が、茨木童子の顔に撃ち込まれた。

 その顔には血が滲んでおり確かにダメージが入っていることが分かる。

 茨木童子が水弾が放たれた方向を見ると、岳賢と目が合う。


「子供にまで手を出すのは、酷いんじゃねえか?」

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