第126話 菅原玄六VS茨木童子
「ふん、たわいもない……ん?」
玄六を仕留めたと笑う茨木童子は眉をひそめた。
体に穴が空いたと思っていた玄六が影となって、消えたからだ。
「陰行・影遊び」
どこからともなく聞こえた言葉と共に、茨木童子を囲むように大量の影の狼が襲い掛かる。
「児戯にすぎんな」
茨木童子は体中から雷を放ち、影の狼が貫かれた。
茨木童子はその後、玄六の姿を探し周囲を見渡ていると、突如バランスを崩す。
(右足が……影に飲まれた?)
茨木童子の右足が影に沈んでいた。
「餓狼、行け」
玄六の言葉と共に、背後から餓狼が茨木童子めがけて牙を剥く。
「小賢しい真似ばかりするな!」
怒った茨木童子が思い切り振り返りざまに横薙ぎの手刀を浴びせる。
手刀を受けた餓狼は大きく吹き飛んだ。
玄六は影から姿を見せると、飛ばされた餓狼を受け止める。
「一級以上はこれだから嫌じゃのう」
玄六は茨木童子の強さにため息を吐く。
(速く倒せよ、岳賢。長くは持たんぞ)
こうして菅原家と酒呑童子達の戦いが始まった。
「鬼どもをせん滅しろー!」
玄六と茨木童子の戦いを皮切りに、皆周囲の敵と戦い始める。
「酒呑童子に従う鬼。お前は茨木童子か?」
玄六が声をかける。
「なんだ私を知っているのか、老いぼれ」
(茨木童子と酒呑童子。歴史的な大妖怪ではないか。この年でそこまでの怪物と戦えるとはな。血が沸き立つわい!)
「知っておるさ。有名じゃからな! 陰行・影遊び」
茨木童子。
平安時代に大江山を中心に京都で暴れていた鬼の一人である。最強の鬼と言われる酒呑童子の右腕としてもその名を馳せる。
平安時代の武将、渡辺綱《わたなべのつな》と茨木童子の戦いは数多くの物語にも登場しており、羅生門での戦いは能《のう》としても描かれている。
玄六が呪を唱えると、再び大量の影の狼が囲むように現れる。
その数は五十を超えていた。
その狼達に紛れる様に玄六は再び姿を晦ませた。
(上手いな……本物と見分けがつかん)
茨木童子は言葉にすることはなかったが、玄六の技術に感心を覚えた。
「だが、時間稼ぎにもたいしてならんぞ! 対して霊力もない老いぼれではな!」
茨木童子はその手から再び飛雷を放ち、一匹ずつ影の狼を削っていく。
「来ないのか、
茨木童子は煽りながらも、いつか来る強襲を警戒する。
複数の狼に襲われた時、一匹を飛雷で撃ち抜き、もう一匹は素手で消し飛ばしていた。
(飛雷は連射できんのか? 一度撃つと一秒未満じゃが、隙が生まれておるのう)
玄六は神経を研ぎ澄ませながら、少しずつ狼を向かわせて時間を稼いでいた。
あまり時間を空けるとこちらへの興味を失うが、一斉に襲わせてはすぐに数が減ってしまうからだ。
玄六はちらりと岳賢の方を見るも、まだ戦いが終わる気配はない。
少しずつ、少しずつ影の狼は削られていく。
「こないのか? 初め五十は居た影は、今や十ほどしか居ないぞ? これじゃあ盾にもならん」
茨木童子は笑いながら、また一匹の影を消し飛ばした。
その瞬間、背後から玄六が茨木童子に襲い掛かる。
「飛雷!」
その雷が玄六を貫くも、同時に前方の影から餓狼が首を狙って襲い掛かる。
(老いぼれは影か! 飛雷の隙を狙ったな。涙ぐましい……だが)
「放雷」
茨木童子の言葉と共に、その全身から周囲に雷が無差別に放たれた。
その雷は餓狼の腹部を見事に貫き、消し飛ばした。
(この手ごたえ、本物だな!)
消し飛ばされ残った餓狼の血や肉片が茨木童子にかかり、わずかに不快そうな表情を浮かべる。
だが、すぐに茨木童子はその異変に気付く。餓狼の肉片が自らの体に絡まり、動きを阻害しようとしていることに。
「油断しおったな。餓狼の自慢はその牙や爪ではない。死して尚呪いのように敵に絡みつくその執念よ。陰行・
「なっ!?」
茨木童子の地面に巨大な口の影が映ると、口を大きく開く。
その口から現れた舌が茨木童子に巻き付くと、そのまま飲み込んだ。
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