第123話 到着
奥大池付近の山は現在全て閉鎖され、自衛隊と陰陽師協会兵庫支部の陰陽師が警備に当たっている。
そこに今、菅原家の精鋭が数年ぶりに全員集合となった。
「菅原岳賢様が来られました!」
「岳賢様、お疲れ様です!」
岳賢の姿を見た陰陽師達が皆頭を下げる。
末端の陰陽師にとって、一級陰陽師など雲の上の存在である。
「お疲れ。これから菅原家の者で奥大池へ向かう。他の者は入れるな」
「「「はっ!」」」
岳賢の他の菅原家は全部で十一人。
二級陰陽師が八人、三級陰陽師が三人である。他にも三級陰陽師が大量に居るが、実力の足りない者は招集されていない。
「岳賢~、儂まで呼ぶなんてそんな大物か? 今回の奴は」
岳賢のことを呼び捨てで呼ぶこの老人は
齢六十年を越えて今なお現役の二級陰陽師である。
「玄六さん。大物でないと助かるんですが、敵の規模もまだ分からんので呼ばせて頂きました」
「はっは、お前の勘はよく当たる。嫌な予感がするのう」
他の二級陰陽師も他の県で支部長を担う者も居る実力者ばかりである。
「天真、久しぶりじゃのう~! こんなに大きくなって。お前のために煎餅を持って来たんじゃ」
玄六は背中のバッグから煎餅を取り出し、天真に手渡す。
「いつまで経っても子供扱いしないで下さい。俺、もう三級陰陽師なんですから!」
とぶつぶつと言いながら天真は煎餅を食べる。
「何級かどうかなんて関係ないわ! お前などいつまでも子供じゃ! あまり前に出るでないぞ~?」
そう言って玄六は天真の頭を力任せに撫でる。
「分かってますよ!」
「一級の戦いは、二級以下など邪魔にしかならん。儂等はせいぜい露払いじゃ。それを努々忘れるなよ?」
いつも冗談ばかり言う玄六の真剣なトーンの言葉に、天真は言葉を詰まらせた。
「まあ大丈夫じゃ。なんと言ってもこちらには岳賢が居るからのう!」
「冗談はそこまでに。向かうぞ」
岳賢の言葉と共に、菅原家の面々が山に入る。
山の中は思いのほか静かであった。
(分からん……が本能的な俺の勘が危険を伝えている。まるで怪物の腹の中に居るかのような感覚)
岳賢は警戒心をあげつつも先に進む。
「人?」
そう言葉に出したのは天真。
天真の視線の先には着物を着た若い男、黒曜が立っている。
漆黒で輝く長髪を下ろし、人とは思えないほど整った顔が、彼をどこか妖艶に見せていた。
皆の視線が、一様に黒曜に向く。隠していてもその妖気が恐ろしいことが伝わるからだ。
(誰だ? 人ではない……おそらく妖怪。そして恐ろしく強い! このレベルの者がなぜ、こんなところに? 勝てるか?)
岳賢は見た瞬間に、本能的に護符を取り出した。
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