第121話 行方不明
綺麗な場所だった。
海岸からは輝く海が見えるし、中心には山があり自然が多く残っている。
だが、フェリーには他に客は居なく、どこか寂れた印象を受けた。
ゆまは島に辿り着くと、早速カメラを装備している。
格好もいつの間にか私服から狩衣に変わっていた。
「ようやくついたわね! まずは聞き込みに行くわよ、道弥!」
ゆまは一直線に村の方へ向かう。
沖島は総人口千人ほどの少ない島であり、そもそも人が居ない。
俺達は舗装されている道を進み、ようやく人の姿を見ることができた。
畑を耕すお婆さんがこちらに気付き、鍬を持つ手を止める。
「誰じゃあんた等? 最近は観光客も来てないのに珍しいのう」
「私はアイドルをやっている雲母坂ゆまと言います! こんにちは!」
素晴らしい営業スマイル。
二重人格を見ているかのようだ。
「は~。あんた、陰陽師なんか? そんな恰好して」
「はい!」
「皆ー、ようやく陰陽師来てくれたらしいでー!」
お婆さんの大声に、人がぞろぞろと現れる。
「村長が呼んでくれたんかいな?」
「そうちゃうか?」
誤解が生まれている。
「ちゃうやろ! ゆまさん、いつもテレビで見てます! 握手してください!」
その中の一人の少年が恥ずかし気にゆまに手を伸ばす。
こいつのファンが居るのか……。
俺は彼に小さく同情した。
「本当? ありがとう! これからも応援してね?」
ゆまはそう言うと、彼の手を両手で包んで、にっこりと微笑んだ。
この様子だけ見るとちゃんとアイドルなのだと俺は思う。
この様子だけ見ると。
少年の顔が真っ赤に染まる。
「あ、ありがとうございます!」
「いえいえ。この島の怪奇現象について調べているんだけど、何か知らない?」
「ゆまさん、危険なんで島から早く離れた方が良いですよ」
少年は真面目な顔でそう言った。
そのトーンは余りに真剣だったので、皆が一瞬沈黙する。
「そうなの? 危険なことはしないから、教えて欲しいな?」
「ここ数ヶ月この島全体がおかしいんです。村の畑が荒らされていた時はただ、害獣が現れただけだと思ったんです。けど、違った。最近遂に人まで消え始めたんです」
「人まで……?」
「知り合いのお婆さんがもう四日も行方不明なんです。皆は放っておけば戻って来ると言っていますが、今までそんな長期間いなくなったことはなかった。警察にも伝えたんですが……。それに野菜だけでなく建物まで齧られている跡が」
建物まで齧られているのが事実なら、規模によるが動物でない可能性が高い。
「齧られた建物の場所分かる?」
「廃校になった小学校の近くの建物です。あっち。お婆さんの家も……」
少年は南側を指す。
「ありがとう。じゃあ行ってくるね」
「危ないよ!」
「大丈夫、お姉さんは一流の陰陽師だからね!」
心配する少年をよそに俺達は南へ向かった。
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