第120話 ゆまちゃん
三日後、俺は東京駅にやって来た。
夕日テレビのディレクターである山下さんから指定された喫茶店に向かう。
「道弥さん、こちらです」
手を振る山下さんの横にはおそらく本日から一緒に仕事をするタレントの姿があった。
「山下さん、お久しぶりです」
「お久しぶりです。本日から一緒に仕事をしてもらう雲母坂ゆまさんです」
今は私服であるが、最近テレビで見たアイドル陰陽師の姿があった。
「こんにちは、初めまして! ゆまって言います! 強いって聞いてます。本日から少しの間ですがよろしくお願いします!」
そう言って雲母坂さんは深々と頭を下げる。
まともそうな人で良かった。
「芦屋道弥と申します。こちらこそよろしくお願いします」
俺も相手に習って頭を下げた。
「二人とも顔合わせもできたことだし、今一度確認しておくね。今回は和歌山県にある有人島『沖島』に行ってもらいます。怪奇現象について原因を探ってもらえばいいから、危険なことはしないようにね」
それなら簡単そうだな。
まあテレビの企画なんてそんなものか。
「はい」
「はーい!」
「では質問もなければ次の新幹線で行ってもらうから。じゃあよろしくね」
そう言って、山下さんは新幹線の切符を渡して席を立つ。
「あんた年いくつ?」
山下さんが消えてしばらくすると、この女急にため口で話し始める。
「十五」
「主席かなんだか知らないけど、同じ四級なら私の方が先輩で年齢も上なんだから敬語使いなさいよ」
なんだこいつ。
「同じ階級で敬語をつかわなければいけない理由が分からんな」
「馬鹿ねえ。先輩を敬うのは当たり前でしょう? しかも今回の企画は私が主役な訳よ。あんたはおまけ! 先輩として、陰陽師が何かってことを教えてあげるわ! 足を引っ張らないように、せいぜい気をつけなさい」
と胸を張りながら言う。
こいつ、猫かぶりすぎだろ……。アイドルって皆こうなのか?
「まあ、行きましょうか」
このあほと俺は長旅しないといけないと思うと、既に仕事を受けたことを後悔していた。
『この子は中々……凄い子ですなあ』
真の呆れたような言葉が脳内に響いた。
『殺します?』
殺気に溢れる莉世の言葉も。
『止めろ。仕事終わっちゃうだろ』
そして俺達は新幹線に乗るも、なんと隣の座席である。
いや、まあわざわざずらすのも変なんだけどさ。
「あんた、私の隣に座れて幸せねえ」
この女はこちらを見てにやにやしている。
このあほ、どうしたらいいんだ。
俺はため息を吐く。
「緊張してるの? 仕方ないわね。そう言えばさっきディレクターは原因を探るまで、って言ってたけど原因の妖怪を祓うまでするわよ」
「……そこまで行くと、祓除依頼になるだろ」
「馬鹿ねえ。ただの心霊現象動画じゃたいして使ってもらえないでしょ! 私の鮮やかな祓うシーンがあるから使われるのよ。分かった?」
「依頼以上のことはするつもりはない」
「びびってるの? まあいいわ。私が居れば十分だから」
面倒な依頼になりそうだな。
車窓を見ながら俺はこれからについて思いを馳せた。
新幹線を下りた後、電車やフェリーを乗り継いでようやく沖島に辿り着く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます