第119話 菅原天真

 菅原岳賢は道弥の事務所を去ったのち、菅原家本邸に戻った。

 二条家の屋敷と変わらないほどの広大な屋敷に、菅原家の規模の大きさが垣間見える。

 岳賢の帰宅に、多くの使用人が仕事を止め頭を下げる。

 岳賢は中に入るや否や、屋敷に住んでいる部下に命令を下す。


「菅原家の精鋭を集めろ。二級以上は全員呼べ。三級は最低でも三級上位を祓える者のみだ」


「承知しました。すぐに皆に連絡致します」


 菅原家は全国に事務所を構えている。

 二級といえば各県の代表と言っても良い存在であるため、各地に散らばっている。

 岳賢が部下達に指示を出していると、一人の少年が姿を見せる。


「岳賢様、お疲れ様です」


「なんだ、天真。お前本家に来ていたのか」


 少年の名は菅原すがわら天真てんま

 黒髪短髪で、前髪を上げておりそこからは凛々しい表情が良く見える。

 整った面差しに、自信溢れる表情を浮かべていた。


「はい。兵庫の件で動いていると聞いたので早速やってきました。先ほどまでどこに行っていたのですか?」


「芦屋道弥の所よ。スカウトしたがまた断られてしまった」


「確かに少し才能はあるかもしれませんが、岳賢様が直々伺う程とは思えません」


 天真が低い声色で言う。


「お前も道弥に会えば分かる。奴は別格だ。今日奴の式神を見たが……あれほどとはな」


 岳賢の顔は笑っていた。


「……そうですか。俺も兵庫行きますから」


 天真はそう言って踵を返した。


「ああ。お前も来い。今回は久しぶりに上は全員揃う。お前にも露払いをさせることになるだろう」


 その場から去った天真の顔は歪んでいた。

 菅原天真は昨年の陰陽師試験主席合格である菅原家の秘蔵っ子である。

 齢十六にして三級陰陽師になるその才は分家ながら次期菅原家当主として多くの者から期待されている。

 本人も自分が菅原家を継ぐと思っておりそのために鍛錬を怠ったことは一度もない。


(俺だって前回主席合格なのに……どうして岳賢様は奴だけ贔屓するんだ! 俺には一度だって養子に来いなんて言ったことない癖に!)


 燃え盛るほどの嫉妬。

 天真は幼い頃から菅原家のトップとして君臨する岳賢に憧れており、その背中を追っていた。そのため岳賢の目が天真ではなく、道弥に向いていたことが許せなかった。


(今回の兵庫遠征で必ず俺の実力を岳賢様に正しく理解してもらう! そうすれば必ず……!)


 天真は殺気を隠そうともせずに歩いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る