第118話 お祝いに来たぞい

「それにしてもテレビは兵庫県のニュースばかりですな」


 真がテレビを見て言う。

 一級相当の土地神が殺されたということはおそらく敵も一級以上。

 強いのだろうか?


 俺の霊力をあげるためには強敵との戦闘が不可欠である。

 だが、テレビを見るに既に陰陽師協会は総出で動いているらしい。

 邪魔をするつもりはないが、気になるな。


「黒曜、お願いがあるんだけど」


「なんだい?」


「大奥池、見に行ってもらえない? どれほどのレベルの妖怪が居るか知りたいんだ。戦わなくても良いから、相手にばれないように。後、邪魔しないようにね」


 俺の言葉を聞いた黒曜のテンションが上がる。


「最初の友にして、最強の僕に任せてくれたまえ! 僕なら絶対に敵にもばれずに正体を探ってみせるよ!」


 随分張り切っているな。

 そこまで深い意味もなかったんだが……。

 まあいいか。

 莉世は冷めた目で黒曜を見ていた。


「なんか外騒がしくないか?」


 夕日テレビの人達が帰ってからしばらく外が騒がしい。

 事務所の前で何かやっているのか?

 また宝華院家のあほ共が邪魔をしにきたんじゃないだろうな。

 俺は気になって外に出ると、なんと着物を着たおっさんが巨大なスタンド花を勝手においていた。

 スタンド花の中心には


『祝 御開業

 芦屋道弥 様

 菅原陰陽師事務所 菅原岳賢』


 とやたら達筆な字で書いてある。

 よく見たら以前俺をスカウトに来た菅原家当主である。一級陰陽師だろう、暇なのか?


「人の事務所の前で何やっているんですか?」 


 俺の顔を見たら、素晴らしい笑顔で、親指を上げた。


「まだ開業祝いを送ってなかったからな! 水臭いじゃないか。その若さで事務所を開業したんだろう?」


「水臭いもなにもそんな付き合いないですよね、俺達?」


「付き合いは長さじゃない、質だろう?」


 俺とあんたは質もないだろう、別に。


「何しに来たんですか?」


「スカウトだ! 俺はまだ諦めてないぞ? 菅原家に来い! お前の才能を最高の環境で磨くのだ!」


「前もお伝えしましたが、芦屋家復興のためには芦屋家として活躍しないと意味がないのですよ、岳賢さん」


「つれないな、道弥よ。だが、俺は何度でも現れるぞ」


「いや、来なくていいです」


 そんな話をしていると、莉世が事務所の中から現れる。


「道弥様、いったい何をしていらっしゃるのですか? あら」


 岳賢は莉世を見て、動きが止まる。その後、小さく笑った。


「道弥、お前……面食いだったのか? 確かに彼女は美人だが……俺の娘も美人だぞ?」


 なにいってんだ、このおっさん。


「見る目がありますわねえ。私が道弥様の恋人です。だが、貴方の娘じゃ力不足よ?」


 そう言って莉世が俺の手に絡みつく。

 誤解うむだろ……。


「莉世、冗談は止めろ。岳賢さん、そこは問題じゃありませんから」


「ハハ、今日はここまでにしておこうか。純粋な開業を祝いに来たのだからな」


 そう言って、岳賢さんは俺に小さな箱を投げる。


「これは?」


「世界最高峰の環境で作成された和紙、毛筆、墨だ。君レベルならば素材の方が有難かろう?」


 これは驚いた。

 本物の貴重品である。

 和紙、毛筆、墨どれ一つとっても最高峰の素材は車を買うよりも高くなるうえに金を積むだけでは買えないほど貴重なものとなる。


 箱の中からでも分かる程の清らかな霊力。

 間違いなく、本物であろう。


「素晴らしい品を頂き、ありがとうございます」


 俺は深々と頭を下げる。


「なに構わん。来たついでにすぎん」


 岳賢さんはそう言って去って行った。

 贈り物は嬉しいが、こんなでかいスタンド花どうしろってんだ。

 けど、良い人だな。お節介だけど。

 俺は箱を見ながらそう思った。


◇◇◇

【宣伝】


拙作『不敗の雑魚将軍』第2巻が5月15日に発売されます!


どんな質問でも『イエス』か『ノー』で分かる、というスキルを持った少年が、そのスキルを駆使して成り上がっていくファンタジー作品となっております。

熱い作品となっておりますので、良ければ是非購入等して下さると嬉しいです(*'▽')

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る