第114話 縁
少女を優しく包み込み、人面瘡だけ消し去るように。
「臨兵闘者皆陣列前行。少女を守り、悪しきものを祓いたまえ。浄化結界・
俺の呪と共に、大きな両手が発現し、そのまま少女を包み込む。
その両手に触れた瞬間、人面瘡達が騒ぎ始める。一方少女は穏やかな顔から変わらない。
「おい! やめろ! いますぐ、このてをけせ!」
人面瘡達が叫ぼうが、その両手が止まることはない。その声は悲鳴に変わる。
「やめて、くれ! たす――」
「失せろ」
「がひゅ」
如来様の合掌した瞬間、人面瘡達の断末魔だけが小さく室内に響いた。
少女の体は何事もなかったように綺麗になっていた。
完全に分離して祓うことができたようだ。
人間と一体化するタイプの妖怪は中途半端に祓うと後が一生残る可能性があるため、圧倒的な実力で一瞬で祓うしかない。
そのため、妖怪の強さよりはるかに上の陰陽師が必要になることが多い。
妖怪の残穢は感じられない、完全に成功したと言えるだろう。
背後で呆然としていた二条さんは、娘の綺麗な腹部を見て大粒の涙をこぼす。
「都! 都おおおお!」
二条さんは娘に抱き着くと、大声をあげて泣いた。
「お父さん、痛いよ……」
娘はそんな父を見て、優しく微笑んでいた。
親子の幸せな交流が終わった後、俺達は別室に呼ばれる。
「誠に申し訳ない! 無礼なふるまいを謝罪させてほしい」
二条さんは深々と土下座をした。
中々に高い社会的地位を持っているはずだろうに躊躇がない。
「いえいえ、お気になさらず」
金はちゃんともらうからな。
「いえ、それでは私の気がすみません。今まで十を超える陰陽師に依頼しましたが全て駄目で正直、祓うことはできないのではないかと思っていました。貴方は娘の命の恩人です!」
「娘さんのことを思えば、先ほどの対応も仕方のないことです。頭をお上げください」
「なんと器の大きい……! この御恩は一生忘れません。何かお困りのことがあればいつでもおっしゃってください。後、こちらはまず、報酬です」
二条さんが手を叩くと、後ろからスーツを着た男達がジュラルミンケースを持ってくる。
四つのケースを開けると、そこには一万円札がぎっしりと詰まっていた。
「報酬の四億円になります」
聞いている額より大きいぞ?
事前の話では佐渡さんから一億円と聞いていた。
佐渡さんを見るも、両手を上げて分からないというジェスチャーを取られた。
「あの後、報酬を増額し一級指名依頼に変更したんです。もう取り下げましたが。娘の命が助かったのですから安いものですよ」
と微笑む。
流石社長である。父の生涯年収くらいは今日稼いだ気がする。
「ありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそ。そう言えば慌てていて自己紹介がまだでしたね。二条商事代表取締役の
「四級陰陽師の芦屋道弥です。二条さんとの出会いに感謝を」
そう言って俺達は握手を交わす。
「お困りのことと言えば、二条さん、今事務所探してまして良い不動産ないですかね?」
「どちらだい?」
俺は自分の住所付近を伝える。
二条さんは少し考えるそぶりを見せた後、口を開く。
「ああ、そこなら良い物件を用意できると思う。後で君の元に物件資料を送らせてもらうよ。今年の試験で合格と言うことはまだホームページもまだなんじゃないかい?」
「そうですね」
あまりそちらは考えていなかった。やはり必要なのだろうか?
「ホームページや宣伝も任せてもらえないかい? 商社だからそちらも得意でね」
二条さんが自信ありげに言う。
「宣伝なんて全然詳しくないので助かります。おいくらくらいかかるものなんですか?」
大金を貰ったとはいえ、無駄遣いはできない。
「いや、これに関しては無料で行わせてもらうよ。先ほどの無礼な態度の謝罪だと思ってほしい」
「では有難く」
報酬以外にも思わぬ副収入を手に入れてしまったな。
「いつでも何かあったら言ってくれたまえ。全力で手助けすると約束しよう」
「嬉しいですが、なぜそこまで? 最初の態度は先ほどのお礼で十分ですよ?」
「なに、商売人と言う者は誰よりも縁を大事にする。君ほどの陰陽師との縁は何よりも貴重ということさ」
二条さんはそう言って笑う。
「なるほど。では全力で甘えさせてもらいます」
こうして人面瘡退治は思わぬ縁を生んだ。
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