第113話 嘲笑う

「佐渡さん、お疲れ様です。はい、大丈夫ですよ。どうかされましたか?」


 俺は佐渡さんからの突然の電話に驚きながらも答える。


「実は私が受けた依頼なのですが、お恥ずかしながら力不足で依頼失敗してしまいまして。道弥君のお力を借りたいのです」


「なるほど」


 二級陰陽師として過不足ない実力を持つ佐渡さんが失敗するとは、中々の高難易度依頼であることは間違いがない。


「聞かせて頂きますが、受けられるかは限りませんよ」


「ありがとうございます。実は今回の祓除対象は人面瘡です」


 その言葉で全てを察した。


「どれくらい進行していましたか?」


「もう私では無理に剥すことはできない程です。七割程度でしょうか?」


 千年前から妖怪は時に医療ではどうしようもない呪いとして人々を苦しめてきた。それは今も変わらない。俺は昔弟子であったある少女を思い出した。


「……分かりました。受けましょう。今日中に用意しますので、明日大丈夫ですか?」


「勿論です。ありがとうございます。この間もお世話になったばかりなのに再び尻拭いを任せてしまい申し訳ありません」


「いえいえ、稼がせてもらいますので」


「それは期待すると良い。相手は二条商事の社長である二条さんだからね」


 二条商事。

 あらゆる事業に手を伸ばしている総合商社である。

 それほどの規模の会社でも、人面瘡は対処できなかったか。

 俺は佐渡さんに別れを告げると、用意を始めた。


 翌日。

 俺は佐渡さんに連れられて東京の大豪邸に辿り着く。

 うちとは大違いだなあ。

 門を通り大きな木造の邸宅に入る。

 だが、俺を出迎えたのは、主の絶望した顔だった。


「どういうことだ! 私は貴方よりはるかに一流の陰陽師を連れてくると聞いたから、再依頼を承諾したんだ! 一級陰陽師が来ると思っていたから、私は……」


 最後は消え入るように言った。


「彼はまだ若いですが、私よりはるかに一流の素晴らしい陰陽師です。それこそ一級陰陽師にも全く遜色のない一流の陰陽師であると私が保証いたします」


「知っているさ、芦屋君だろう? 今年の陰陽師試験で一位を取った。凄いのは分かっているが……凄い程度では駄目なのだ。一級でないと……」


 目の下に大きな隈がくっきりできており、顔色も悪い。どうやら相当まいっているらしい。


「二条さん、既に何度も祓除に失敗しており追い詰められる気持ちは分かります。どうかもう一度だけ、佐渡さんに免じて信じて頂けませんか?」


 俺の言葉を聞き、二条さんは眉を抑えた後口を開いた。


「こちらだ」


 案内された一室には、死にそうに真っ青な顔で動かない少女が寝ていた。

 こちらに気付き、辛いだろうに小さく微笑む。

 服を捲ってもらうと、そこには邪悪な顔がいくつも浮かんでいる。

 その中で一際大きな顔がこちらを見る。


「また、きたのか。ばかだ、ねえ。なんどしっぱいしたら、きがすむんだ?」


 馬鹿にするように人面瘡が笑う。

 俺は少女に優しく告げる。


「今まで辛かっただろうに、よく頑張ったな。もう大丈夫だ」


 そして俺は人面瘡を見据える。


「お、おれをはがそうと、したらこのおんなもしぬぜ?」


 俺はお手製の護符を持つと呪を唱える。

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