第111話 日常

 黒曜との激闘から数か月が経過した。

 今のところ、特に日常に変わりはなく穏やかな日々を過ごしている。

 最近俺は休日に依頼をこなしながら、新たな事務所を探している。


 現在俺は自宅に看板を立てて事務所を開いているが、それが良くない。

 なぜかって?

 現在うちの家の前には二つの看板が並んでいる。


 『芦屋悠善陰陽師事務所』と『芦屋道弥陰陽師事務所』だ。


 階級が同じ四級の事務所が自宅に二つあると、当然客の奪い合いになってしまうのだ。

 しかも申し訳ないことに俺の方に仕事が集中してしまっている。

 父は何も言わないが、悲しそうな顔をされるとこちらも心が痛む。

 徒歩圏で良い場所を探しているが、東京なこともありあまり良い場所は開いていない。

 金の問題ではどうやらないらしい。


「ほら、道弥。早く晩御飯食べなさい」


 テレビをのんびりとみていると母から怒られる。


「はいはい」


 テレビではお笑い芸人が司会をするクイズ番組が流れている。


「それでは次の問題。少しの間に、世の中がすっかり変わることを、ことわざで三日見ぬ間の 何、と言うでしょうか? 今、ボタンを押したのは……最近人気急上昇中の陰陽師アイドル・ハニーレディガールの雲母坂きららざかゆまちゃんです!」


 司会の言葉の後、狩衣を着た少女が映る。

 ピンク色の髪をツインテールにした小柄な少女。

 大きな瞳に、鼻筋の通った小さな鼻。薄い桃色のリップの塗られた薄い唇には笑顔が浮かべられていた。


「はーい! 陰陽師アイドルの雲母坂ゆまでーす! 答えは、女心!」


「ブブー! 間違ったゆまちゃんには電撃が流れます!」


 司会の人がボタンを押した瞬間、少女が大きく飛び跳ねる。


「キャアーー!」


 悲鳴と共に笑いが起こる。


「早く答えを言いなさい、あの男」


 横で莉世が煎餅を食べながら答えを知りたがっていた。なじんでるなお前。九尾とは思えん。


 テレビから答えが『桜』であることが告げられる。


「桜は確かに短いですが……三日で散るでしょうか?」


 とことわざにケチをつけていた。どうやら莉世も間違ったらしい。


「僕は知っていたぞ、莉世」


 と背後で着物を羽織る黒髪長髪の男、黒曜が決め顔で莉世にマウントを取る。


「答えを聞いた後なら、誰でも言えますわ。あんたなんて天狗のことわざしか知らないでしょうに」


「なんだと……! 九尾のことわざがないお前に言われたくないね!」


「狐のことわざなら天狗より絶対多いでしょうが!」


 と小学生みたいな喧嘩をしている。ことわざの数でマウントやめろ。


「お前等、喧嘩するな」


「「はい」」


 返事だけはいいんだよなあ。

 最近は陰陽師も多角化しているなあ。アイドルしていたり、佐渡さんも元サラリーマンだし。

 それも平和な証拠かもしれない、と思いながらテレビを見ていた。

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