第109話 行方不明
佐渡さんが取り出したものは小型撮影用カメラである。俺が父から貰って持て余してたあれだ。
そのカメラにはしっかりと大樹がこちらに助けを求めていたのが撮影されていた。
「ここにしっかりと全ての会話が記録されてますが、それでもまだ言い訳されますか?」
「これ以上言うなら、おとなしく消えるか?」
俺の言葉を聞き、ぶるりと体を震わせる。
「分かった……確かに俺は救援を依頼した。そういうことにしておいてやる」
大樹はそう言った。
この馬鹿が言いがかりをつけてくるのは予想できた。簡単に証拠が用意できるいい時代になったもんだ。
こうして、俺達の京都依頼は幕を閉じた。
新幹線に乗り、東京に戻る。
「最近人里にあまり降りてなかったけど、変わったんだねえ。まるで祭りだ」
駅の込み具合を見て、黒曜が驚いた声を上げる。
「え? あの人格好良くない?」
「本当だー。浴衣超似合ってる」
見た目だけは美形なため、黒曜は女性の目線を集めていた。
「駅から離れると、田舎に戻るさ。行くぞ」
俺は目立つ莉世と黒曜を連れて自宅に戻ろうとした時、佐渡さんから声がかかる。佐渡さんは深々と頭を下げる。
「道弥君。この度は色々ありがとうございました。君が居なければ、私は命を落としていたでしょう。本当に、心から感謝を。この恩は忘れません。君にもし何かあれば、私が命に代えても助けに行きます」
「それはありがたい。何かあれば頼みます」
「勿論」
俺達は握手を交わし、別れた。
自宅に戻ると、家の前にどこかで見たことあるようなお爺さんが立っている。綺麗な仕立てられた服を身に纏う上品そうなお爺さんだ。
お爺さんはこちらを見ると、必死の形相でこちらにやって来た。
「お嬢様が……! 夜月様が行方不明なのです!」
お爺さんは泣きそうな声でそう言った。
「行方不明って何があったんですか⁉」
俺は突然の情報に思わず大声を出す。
連れ去られた?
安倍家に恨みを持ったものの犯行か?
様々な可能性が頭をよぎる。だが、その答えは想定とは違うものだった。
「お嬢様は御当主様と揉めて、姿を消したのです……」
「夜月の奴……何やっているんだ」
俺は頭を抑える。
一体何があったんだ?
俺の件か? いや、考えすぎか……。
「道弥君、どこか行き先に心当たりはありませんか?」
「分かりませんが……僕も探してみます」
「すみません。行き先が分かったらここに連絡お願いします」
お爺さんはメモ用紙に連絡先を記入すると、手渡して去っていった。
「なるほど……理由が分かったよ」
俺は周囲を見渡し、視線を感じていた理由を察する。
「この視線、サクラお前だな?」
俺の言葉を聞き、俺の家の塀に飾ってある置物の一つが、狸の姿に変わる。
「やっぱりばれちゃうか」
姿を現したのは夜月の式神である妖狸のサクラだ。
「夜月の元へ連れて行け。夜月に言われてここを張っていたんだろう?」
「こっちへ。道弥君を待ってたんだ」
サクラに連れられ、俺は昔夜月と訪れた三船山に辿り着く。サクラと夜月が初めて出会った場所だ。
「何があったんだ?」
「本人から直接聞いて。もう着くから」
サクラは言葉少なく、山を登る。山の天気は変わりやすい。
登っているうちに少しずつ空が曇り始め、雨が降り始めた。
「雨か……」
俺はそう呟くと、サクラについていった。
すると、遂に呆然と雨に打たれている夜月の姿が見える。
「やっちゃん! 何しているの!? 中で待ってて、って言ったじゃん」
サクラが叫ぶ。
「別に大丈夫だ、これくらい。それより道弥を連れてきてくれたんだな。ありがとう」
夜月はそう言うと、俺の方を見る。
辛そうに顔を歪めてこちらを見ている。
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