第107話 順番

「え? これ死んでない?」


 俺は莉世の方を振り向く。莉世はすぐに目を逸らした。


「いや、道弥様が、どうせ殺しても死なんだろうって言ったから……」


「言った。確かに言ったけど……。けど、ギリギリ生きているな。あれを直撃で受けても死なないとは、タフだなあ」


 焼き鳥寸前である。


「黒炎が当たる直前、刀から結界が張られた気がしましたね」


 有名な妖刀だったから、ありえるな。まあ、生きててよかった。


「莉世、治療を。このままだと死にそうだし」


「そうなると思ってましたわ」


 嫌そうに、莉世が治療する。思ったより重症なので、治療には数十分かかった。

 治療後、目を覚ました黒曜は、ため息を吐く。


「負けましたか……」


「お前の負けだ。これでようやくゆっくり話せるな。黒曜、なぜ俺のことを知らないふりをして、襲ってきたんだ? 実は式神になることが嫌だったのか?」


 俺の言葉を聞いた黒曜が目を見開く。


「なぜだって!? 僕にしたことを考えれば当然だろう!」


 怒るように黒曜が言う。

 え、何かしたか? 全く覚えがない……だが、人間は知らないうちに誰かを傷つけているというし、それか?


「まさか……分からないのかい?」


 まるで、彼女の『私がなんで怒っているか分かる?』みたいな質問を式神から受けることになるなんて。


「せ、千年前に黒曜が寝てるときに、背中の羽抜いて扇作ったことか?」


「そんなことしてたのかい!? 違う! 全く分かっていない馬鹿な主人のために教えてあげる! 現代に戻って来たなら、なぜ僕を最初に迎えに来ないんだ! 千年前、初めての式神は僕だっただろう!」


 黒曜が叫ぶ。


「じゅ、順番? だって黒曜どこにいるか知らなかったし……」


 俺は黒曜の言葉に驚く。まさか、順番で怒っていたとは。


「僕は鞍馬天狗なんだから、鞍馬に居るに決まっているのでしょう! 一番わかりやすいくらいだ!」


 そう言われれば、そうか? だが、千年も同じ場所に居るとは思わないよ。後、京都遠いし。


「分かった。すまなかった、黒曜。お前がそこまで順番を気にしていたとは」


「私は二番ですので、覚えておくように」


 莉世が黒曜を煽る。


「婆……殺すぞ」


「爺に言われたくありません。三番が」


 二人がにらみ合う。俺はしっかりと黒曜を見据える。


「莉世、煽るんじゃないよ。黒曜、俺にはお前が必要だ。再び、俺の式神となってくれないか?」


「……仕方ないな。君はいつも強引なんだから」


 そう言って、黒曜は笑った。

 黒曜はその後、すぐに人間の姿になった。本人は最近この姿がお気に入りらしい。

 俺はさっそく式神契約の呪を唱える。


 「臨兵闘者皆陣列前行。我が名は芦屋道弥。芦屋家にその名を連ねる陰陽師也。我が名において、命ずる。黒曜よ、我と契約を結び、我が式神と成れ。急急如律令!」


 呪を唱えると、霊力が黒曜の体を包みはじめる。


「何度でも、君と共に」


 その言葉と共に、黒曜の体が黒曜石のような輝きを見せた。

 その黒き光の後、そこには優しく微笑む黒曜の姿があった。

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