第106話

 木々が切り刻まれ、倒れ、動物達の悲鳴が上がる。  

 雷雨と竜巻により一寸先も見えない状況だ。俺はすぐさま結界を張り、竜巻に備える。

 二級以下の妖怪ならこの空間に居るだけで細切れになるだろう。俺は左側に居る莉世に触れ、確認する。

 だが、俺達のレベルになるとこの程度ではたいしたダメージにならない。それは黒曜も分かっているだろう。


 奴の目的は……

 俺は前方に八咫盾を生み出す、剣閃を受け流す。

 危なかった。視界を消すのが目的だろう。

 そう考えていた瞬間、音もなく右側に黒曜が居た。

 そして、黒曜は神速ともいえる速度で抜刀し、その一撃は俺の首を狙っていた。


「終わりだよ」


 黒曜は小さく呟いた。

 だが、その剣は俺の首を刎ねる直前、弾かれる。


「なっ⁉」


 自分の渾身の一刀が止められた黒曜が驚きの声を上げる。

 俺の右側の首元には超小型の八咫盾が展開されていたのだ。


「お前はいつも接近戦では右側から敵の首を狙う。変わっていないな」


 俺はそう言って笑う。黒曜は昔からそうだった。だからわざわざ狙いやすいように、莉世を左側に置いていたのだ。

 二対一では分が悪いのは黒曜も分かっていただろう。ならば、大本である陰陽師を断つ、そう考えるはずだ。

 得意の接近戦で。


 狙いさえ分かっていれば、そこに八咫盾を置いておくだけだ。

 そして、そして迫ってくる場所まで分かれば、仕込みは可能。


「近寄れば勝てると思ったか? 火行・千封黒縄せんぷうこくじょう!」


 その言葉と同時に黒曜の下が光り始める。地面には黒曜を囲むように四方に護符を仕込んである。

 地面から千本の黒縄が生み出され、一斉に黒曜を縛りつける。


「地獄の黒縄か……!」


 黒曜はその華麗な剣捌きで、黒縄を両断していく。だが、全てを捌くには圧倒的に手数が足りない。

 すぐに、両手両足が黒縄に拘束される。


「この程度で、僕が封印されるとでも……!」


 必死で暴れる黒曜。


「数秒隙があれば十分だろう?」


 俺は笑いながら後ろを指さす。そこには口に渾身の黒炎を宿す莉世の姿があった。


「狐火・炎天獄葬えんてんごくそう


 地獄の鬼をも焼き尽くす黒炎。それが圧倒的密度で圧縮された光線として放たれた。

 逃げ場もなかった黒曜は、その一撃を受ける。

 しばらくその一撃の余波で全てが煙に覆い隠された。

 煙は晴れた後、そこには真っ黒に焼き尽くされた燃えカスのような黒曜の姿があった。

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