第103話 大天狗
「もはや伝説と言われる鞍馬天狗と、九尾の戦いをこの目で見れるとはな」
呉斗は枯れたように笑う。
呉斗や他五人を守るように結界が張られている。勿論真が張ったものだ。
「主が心配する。そこでおとなしくしているといい」
「私も何かできませんか?」
「階級一つ違えば、世界が違う。それが陰陽師の言葉だろう? 奴等は皆一級レベルだ。だが、安心しろ。すぐに殲滅してやる」
真もそう言うと、完全顕現する。全長二十メートルを超えるその姿は、大天狗であろうとも一振りで仕留めそうなほど威厳があった。
だが、大天狗は一瞬でその実力差に気付き、大きく距離を開けた。
遥か彼方天空で、ばらけて真の隙を伺っている。
(ふむ……天を翔け奴等を仕留めるのは簡単だが、その隙にこの子等が狙われてしまうな)
真は周囲に大量の氷柱を生み出し、空に居る大天狗めがけて放つ。
凄まじい速さで矢のように放たれた氷柱は、大天狗達に躱されてしまう。
「黒曜め、良い教育しておるわ。しっかり距離を空けられている。お前等、五体もおって私一人にびびって恥ずかしくないのか!」
「ご冗談を。貴方のことは我々ですらしっております。神狼・大口真神。豊穣を司り人に信仰され、同時にその強さから人に恐れられた神獣。相手にもなりますまい。守る者が居なければ」
そう言って、大天狗の内の一体は、ちらりと呉斗達を見る。
「人などという足手纏いを庇うなど、理解できんな。神と崇められ、情でも湧いたか」
錫杖を持った若い大天狗は、錫杖から風を生み出すと、その風で呉斗達を襲う。その風を、真は咆哮一つで消し飛ばした。
(このまま守りに徹しても問題はないが……主は必ず勝つであろう。だが……)
しばらく決め手にかける長距離攻撃が、ぶつかり合う。
「真様、私が足手纏いなのは分かっています! ですが、足手纏いなりにできることはあるはずです。一体ならば、少しは動きを完全に拘束できます」
再び呉斗が真に声をかける。
「お主……」
呆れた声色で顔を向けた真であったが、真剣な顔で言う呉斗に、真が心揺れる。
真は元来、人が好きだった。多くの民を見守り、成長させてきた。
そんな真だからこそ、呉斗を信じたくなったのだ。
(危険なのは間違いない。だが、私が全力で結界を張ればこの子等の安全も……)
「何秒止められる?」
「……五秒」
それを聞いて真は笑う。
「十分だ。私は錫杖を持つ大天狗以外の四体を狙う。私が奴等の元で戦い、錫杖の大天狗が君達を狙う瞬間に、奴を止めろ。五秒あれば必ず私が仕留めてやる」
「お任せを」
話が終わると、真は大天狗達を見据える。
そして次の瞬間、天を翔けた。
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