第102話 気が合うわね
俺はしっかりと佐渡さんの目を見て、口を開く。
「貴方は陰陽師なんてろくなものじゃないと、そう言いました。貴方の境遇を聞けば、そう思うのも無理はない。だけど、たった一人の陰陽師で、そう決断してはもったいないじゃないですか。人なんて、悪党がいれば、善人もいます。陰陽師は誇れる仕事だと、誇れる人も居ると俺が証明します。だから……俺の背中をしっかり見ていて下さい」
俺は佐渡さんに告げると、真を呼ぶ。
「真は皆を守りながら、上の大天狗五体の相手を。できるな?」
「余裕です。お任せを」
真は一吠えすると、すぐに佐渡さん達の側に向かう。
「話は終わったかい? なら、そろそろ殺ろうか」
黒曜は宙に浮きながら、こちらを見下ろしている。
「ナルシスト野郎が……! 調子に乗って!」
莉世はその言葉と同時に完全顕現を行う。
全長二十メートルを超える巨大九尾が現れ、周囲の木々が全て消し飛んだ。
莉世は口を開くと、巨大な火球を放つ。
「激しいね……」
黒曜は掌をかざす。すると、掌から球体の竜巻を生み出し、そのまま火球にぶつける。
火と風が交わり、爆ぜる。
巨大な爆発音と共に、周囲数十メートルは全て消し飛んだ。
俺は周囲を見渡すが、真がしっかりと人間達を守っていた。
莉世は爆発など気にすることもなく、その爪で黒曜に襲い掛かる。
黒曜は刀の柄に手を当てる。凄まじい妖気が剣に纏われる。
「
黒曜は剣を抜き、一閃する。
「避けろ、莉世!」
俺の言葉に反応した莉世が、直前で攻撃をやめ、ぎりぎりのところで回避する。
躱した剣閃は、後ろの山を斬った。
次の瞬間、巨大な山に綺麗な線が斜めに入り、崩れ始めた。上の部分が土砂崩れの様に崩壊したのだ。
「たった一撃で山が……! やはり零級妖怪は、天災と同様というのか……!」
佐渡さんが真っ青な顔で呟く。
「今の一撃を躱したのは正解だね。当たれば、莉世とはいえただじゃすまなかったよ」
鞍馬天狗とは歴史上の人物である牛若丸に剣術を教えたとも言われる生粋の剣豪である。
その卓越した剣術に、日本を代表する八大天狗の妖気が込められた一撃。
単純な攻撃力であれば、俺の式神の中でもトップクラスであった。
いつも助けられていたが、敵になると厄介極まりないな。
だが、莉世は黒曜の態度が気に入らなかったらしい。
「……その鼻へし折ってやるわ!」
莉世は九本の尻尾をまるで鞭のように使い、黒曜を襲う。
凄まじい連撃が黒曜に叩き込まれる。矢継ぎ早の一撃が、黒曜に反撃の隙を与えない。
黒曜の体は傷だらけになってはいくものの、致命傷にはならないよう黒曜も気を使っているようだ。
次第に苛立った顔を見せる黒曜が息を大きく吸い込む。
「暴風烈波!」
黒曜は口から巨大な竜巻を生み出した。この山を軽く包み込む竜巻が莉世に向かって襲い掛かる。
視界が消えるほどの嵐。
だが、その身が切り刻まれるほどの嵐を、莉世は真正面から突っ込む。
「そんな広範囲な一撃で、私を倒せるとでも」
莉世はその巨体での右ストレートを黒曜に叩き込んだ。
黒曜は数十メートル吹き飛ぶと、地面に数回叩転がり、最後は大木に叩きつけられる。
鼻から血が流れ、それを手で拭き取る。
「昔から、あんたは雑で嫌いだよ」
黒曜は不愉快そうに言う。
「あら、気が合うわね。私も嫌いよあなたのこと」
一方、莉世は笑っていた。
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