第101話

「鞍馬天狗だと……そんな大物がなぜここに」


 その圧倒的な妖気に、佐渡さんの顔が歪む。だが、すぐに覚悟を決まった顔をして護符を構えた。


「道弥君……雪乃を任せて良いですか? 私が、相手をする」


「そ、そんな駄目よ!」


 雪乃が大声で叫ぶ。


「人にしては中々鍛錬を積んでいるようだが、君程度では前座にすらならないよ」


 鞍馬天狗は興味なさげに言う。


「知っているさ。やっぱり陰陽師なんて、ろくなものじゃない……」


 呟くように言った。

 佐渡さんはもうチームは解散したにも関わらず最後まで、リーダーとしての責務を全うしようとしている。

 ここで失うには、惜しい人材だ。

 俺は静かに二人の元へ歩く。


「今、彼らは久しぶりの逢瀬なんだ。邪魔は無粋というもんだ。お前の相手は俺がしよう」


「道弥君、無理です! いくら君でも……鞍馬天狗には勝てない。鞍馬天狗は零級相当! 国家規模の戦力が必要なのです!」


「彼の強さなら知ってます。なあ、黒曜こくよう


 俺は鞍馬天狗・黒曜に声をかける。

 その言葉を聞いた黒曜は目つきが変わる。今までの穏やかな表情が、古傷が抉られたかのように。


「随分前に捨てた名だ……今更その名で呼ぶな」


 一気に妖気が溢れ出す。


「莉世、真、来い」


 俺の言葉と同時に、莉世と真が顕現する。


「黒曜、久しぶりだな! もう気付いているだろう? 道弥様は芦屋道満様の――」


「道満だって? 知らないね、そんな男」


 真の言葉に、鞍馬天狗はばっさりと返す。


「貴方……道弥様の正体を知ってなお、逆らうと言うのかしら?」


 莉世が鋭い眼光で黒曜を睨みつける。


「そんな男などどうでも良い。僕は鞍馬山天狗会総長鞍馬山僧正坊! 頭が高いな、人間如きが」


 黒曜はそう言うと、剣を抜いた。




 黒曜は千年前俺が式神として使役していた妖怪の一柱だ。

 最初に使役した妖怪だけあって、付き合いも長いはずであるがどうやら黒曜の中では嫌な思い出になっているのだろうか。


「黒曜、偉くなったな。だが、二対一で勝てるとでも?」


「お前等、来なさい」


 黒曜の言葉と共に、空から五体の大天狗が現れる。どれもかなりの妖気を発しており、一級妖怪程度であることが分かる。


「お前達こそ、足手纏いを守りながら勝てると思っているのかい? ここは天狗の総本山。鞍馬山の精鋭達だ」


 空の大天狗達が雪乃や佐渡さん、未希を見据える。


「もう一度敗北を教えてあげよう」


「随分霊力が減ったみたいだね。半分以下じゃないか。昔の貴方は格好良かったが……今は駄目だね」


「ハンデだよ、黒曜」


 俺は笑いながら返す。霊力が減ったなら勝てるなんて、甘く見られたものだ。


「本気です! あの愚か者は本気でこちらを殺すつもりです! こちらも殺すつもりでやって構いませんか?」


 莉世が冷たい目で黒曜を見る。

 君達千年前は仲間だったはずなんだけど……。まあ、千年という時は、生き方を変えるには十分すぎる時間か。


「構わない。どうせ殺しても死なんだろうあいつは」


 俺達の会話を聞いて、驚いた顔をする佐渡さん。


「貴方達は何を言って……それに本気で戦うつもりですか?」

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