第97話 今でも痛む
それから呉斗は森の奥深くまで入っていく。
だが、牛鬼の場所はすぐに分かった。既に宝華院家の者達と戦闘中のようだ。
遠くでも分かるくらいの轟音が響き渡る。
宝華院家は二級が一人。三級が四人の五人チームだった。
だが、呉斗は牛鬼には勝てないだろうと予想していた。
辿り着いた呉斗はすぐにその予想が正しかったことを悟った。
呉斗の目の前に居たのは牛鬼。
六年前とは違い、人型の姿を取っているが、あの禍々しい妖気は六年前の仇敵、牛鬼であることを呉斗に確信させる。
先に戦闘していたであろう宝華院家のチームは三人が既に死亡しており、二人も血塗れで倒れていた。
牛鬼は呉斗を見て、どう猛な笑みを見せる。
「ようやく来たか、呉斗ォ……! 俺を覚えているか? 色々下っ端を連れてきていたようだが、最後は一人のようだな」
「貴方のことなど、おぼえてないと言いたいところですが……覚えていますよ。昔の失敗のけじめをつけに来たのです」
牛鬼はそう言うと、左足で一人の陰陽師を踏みつける。
「ギャアアアア! た、助けてくれえええ!」
「お前達も、知っての通り俺は依頼を受けていない。このままでは横取りになってしまう訳だが……」
呉斗はちらりと大樹を見る。傷だらけで倒れている大樹は悔しそうに歯を食いしばる。
「救援を……頼む」
「承知しました。チームリーダー宝華院大樹の救援依頼を受け付け、これより援護します」
呉斗はネクタイを締めると、護符を取り出す。
「お前の探し物はこれだろう?」
牛鬼は左手で雪乃の頭を掴み持ち上げる。
雪乃は呉斗が来た瞬間、辛そうな顔で叫ぶ。
「何しにきたのよ! あんたの助けなんていらない! 早く帰れ、って言ったでしょ!」
だが、その言葉を聞いた呉斗は全く微動だにせず答える。
「私が何年雪乃と居たと思う? 雪乃が言っていることが、本気かどうかくらい分かります」
呉斗はまっすぐに雪乃を見据えていた。
「呉斗……」
雪乃の目から涙が零れる。
「逃げて……お願い……こいつは化け物よ……」
雪乃は呉斗から目を背ける。
「必ず助けます。安心してください」
それを聞いて牛鬼が邪悪な笑みを浮かべる。
「おうおう、泣かせるねえ。お前を助けるために必死になっていたこの女のせいで、お前は俺に殺されるんだ」
「黙れ!」
怒気に溢れた静かな一言だった。
「俺はその顔が見たかったのよ! お前に抉られた左頬が、左目が、今でも痛むんだよおおおお!」
牛鬼は叫ぶと、人間形態を解く。そこには六年前より大きな妖怪牛鬼が姿を見せる。
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