第89話 牛頭馬頭
牛頭は佐渡さんを標的に定めたのか、担いでいた女性を放り投げると、馬頭と共に前後から同時に襲い掛かった。
「
佐渡さんは左手で刀印を結び、横・縦の順に四縦五横の直線を空中で切る。次の瞬間、鎧をまとった武者と、巨大な鹿が顕現する。
武者は刀を抜くと、こん棒で襲い掛かる牛頭の一撃を受け止める。
凄まじい速度で突進している馬頭の頭突きを、鹿鳴と呼ばれた鹿も突進で受け止める。
大きく、鈍い音が山中に響き渡る。
鹿鳴はそのまま馬頭を吹き飛ばした。
馬頭はそのまま空中で一回転すると、奇麗に着地を決める。どうやらあまり効いていないようだ。
馬頭は吹き飛ばされたことに苛立ったのか、矛を取り出す。矛を構えると、そのまま再度、牛頭と共に連携して再び佐渡さんへ襲い掛かる。
馬頭は矛を渾身の力で振り下ろすも、鹿鳴はその立派な角で受け止める。霊力が爆ぜる音が響くも、馬頭はそのまま右手で鹿鳴の左頬を殴り飛ばす。
鹿鳴は小さな悲鳴と共に、左へ吹き飛ばされる。馬頭は薄く笑いながら、今度こそと言わんばかりに佐渡さんの頭に矛を振り下ろした。
だが、その矛は佐渡さんが左手で持っていた護符に止められる。
「陰陽師本体ならすぐに殺せると思ったか? 俺の得意は陰陽術での近接戦だ! 火行・
次の瞬間、佐渡さんの手から、蒼炎のドリルが馬頭の体めがけて放たれる。そのドリルは馬頭の胴体を大きく抉る。
「ガアアアアアア!」
馬頭はその激痛に叫び、大きくバランスを崩した。馬頭は逃げるように、佐渡さんから大きく距離を取る。その腹部には直径二十センチほどの穴が空いていた。
「やはり……弱いですね」
「ヨワイダト……ナメルナヨ」
馬頭は苛立ったように言う。
「いえ、弱いのは私です。六年前なら、さっきの一撃で仕留められたはずなのですが……。おかげで、迷惑をかけます」
「メイワク? ナニヲ……」
次の瞬間、鹿鳴の両足による渾身の踏みつけが、馬頭の頭を叩き潰した。
鹿鳴はそのまま佐渡さんの元へ歩くと、顔を佐渡さんの顔に擦り付ける。
「鹿鳴、まだ終わっていませんよ。夜叉丸がまだ戦っています」
「ヨ……ヨクモメズを……コロシテヤル!」
牛頭は怒りの咆哮を上げると、力任せに夜叉丸をこん棒で吹き飛ばし、佐渡さんへ襲い掛かる。
「火行・
佐渡さんの手には燃える弓が生まれる。矢も同様に赤く燃え盛っていた。引かれた弓は赤い線を描きながら、牛頭の首に突き刺さる。
「グゥッ!」
矢の刺さった瞬間、牛頭の動きが止まる。その一瞬の隙に鎧武者である夜叉丸の横薙ぎが牛頭の首を一閃した。
「鈍っているって言ってたけど、中々……」
俺は素直に感心する。まだ若いのに良い式神に、鍛錬が窺える陰陽術。
現代にも良い陰陽師がいるものだ。
周囲の妖怪達も、既に他の三人により軒並み祓われていた。
「大丈夫ですか?」
未希が倒れている女性に声をかける。
女性の顔は真っ青で、体は小刻みに震えている。
「た……助けですか?」
「はい。遅れて申し訳ありません」
「よ、かった……」
女性はそう呟くと、安心したのかそのまま眠りについた。
「安心して眠られたそうですね。他に連れ去られた人達は居ないようですが……どこかに閉じ込められているのかもしれません」
「先にこの方を村へ連れて行きましょう! 流石は佐渡さん! 原因である妖怪を一瞬で祓いましたね。後は、山のどこかに閉じ込められているであろう女性達を探すだけです」
同じく来ていた三級陰陽師の男が、テンション高めに言う。
「とりあえず、戻りましょうか」
思ったよりあっさりと終わったな。
俺達は女性を連れて、一旦村へ帰ることになった。
村へ帰るとどこかざわめいている感じがした。
村長は後ろに職員を連れ、こちらを見つけると凄い剣幕で走って来た。
「連れ去られた女性を救出しました。誘拐した妖怪も討伐済です」
佐渡さんは村長に伝える。
「何が討伐済だ! また一人消えたぞ! 俺達を騙しやがって!」
村長は大声で怒鳴るように言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます