第73話 菅原岳賢
百八十を超える長身に、髭を生やした顔には自信に溢れた鋭い目が輝いている。髪はオールバックでしっかりと固めており、飄々とした雰囲気にはどこか威厳を感じさせた。
何より、纏う雰囲気が一級陰陽師であることを一目で感じさせた。
かなり強いな……俺の第一印象はそんな感じだった。
「お前には才能がある! だが、その才能は小さな事務所では活かしきれん。うちに来い。なんなら俺の娘を貰い、婿に来たら良い。どうだ? 芦屋家もしっかりと保護しよう」
岳賢は豪快に笑いながら、手を伸ばしてきた。
「お気持ちは大変嬉しいのですが……」
「なんだ不満か? 俺は才能のある者が好きだ。一目見れば分かる。お前には才能がある。うちにくれば、お前が次期当主になれる。俺が必ずお前を次期当主にさせよう」
「あの岳賢さんにこうまで言わせるとは……」
他のスカウト達も突然の展開に、ただ見守っていた。
彼は本気で言っているのだろう。外部から強い血を。そして陰陽師は繫栄してきた。
「そこまで評価頂き光栄です。ですが、私が御三家の力を使って、私個人が成り上がるのでは意味がないのです。芦屋家の者として、芦屋家を復興させる。芦屋家の汚名は全て私がそそぎます」
俺は彼の目を見てはっきりと伝える。
「……ほう。一族の復興のために、強さを求めたか。まだ若いのに殊勝なことだ。だが、弱小事務所で成り上がるのは茨の道だぞ?」
「覚悟の上です。それに、細かい嫌がらせも全て恐れるに足りません。圧倒的な実力の前では」
俺はそう言って笑う。
「ハハハ! その通りだ! 色々取り繕っても俺達が最後に求められるのは強さだ! その強さこそ我等の証。何か困ったことがあったらいつでも言うとよい。俺は菅原家本邸に居る」
岳賢は俺に名刺を手渡すとそのまま去っていった。
「皆様も本日はわざわざ来てくださりありがとうございます。ですが、私はまだ芦屋家の陰陽師事務所で働きたいと思っております。どうかその意思を尊重していただければと思います」
俺は頭を深々と下げ、そのまま家に戻った。
スカウト達も菅原家が断られるのであれば仕方ない、と帰っていった。
「スカウトの方達はもう帰ったのか?」
父が尋ねてきた。
「うん。俺は、自分の事務所で活躍していきたいからね。そうでないと意味がない」
「そうか……。実は道弥に合格祝いを買ってたんだ。受け取ってくれるか?」
「ありがとう!」
なんだろうか。やはり定番は呪具だろうか? それとも護符用の和紙と、筆か?
「最近の子供達の中で流行っていると聞いたから、これにしたよ」
父が笑顔で出してきたプレゼントを見て、俺は思わず固まった。
目の前にあるのは服につけることのできる小型撮影用カメラだった。
え? なぜに?
「最近は撮影が流行っているらしいじゃないか! これならMeTubeで動画も投稿できるとお店の人が言っていた。性能も良く、りあるたいむはいしん? というものもできるらしくてだな」
何考えてるんだ、この親父は!
俺が将来MeTuberにでもなると思っているのか!? MeTubeとは最近はやっている動画投稿サイトであり、多くの人が投稿して億万長者になっているとは聞いている。陰陽師MeTuberもいるとは聞いているが、なんで俺に……。
「ありがとう、父さん……」
「お前もたまには、子供のように楽しんでいいんだ! 急ぐな、道弥」
だからって、子供に動画撮影機材をプレゼントするな。
そう思いつつも、俺はなんとか礼の言葉を返した。
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