第71話 エピローグ

 真の背に乗り、戻っている途中。なぜか莉世も俺に抱き着きながら後ろに乗っている。


「主様、まさかあの男まで転生しているとは。このまま終わらせるつもりでは勿論ありますまい」


「勿論だ。だが、まだ力不足。まだ前世の霊力は三割ほどしか戻っていない。霊力を戻しつつ、かつての仲間、そして新たな仲間を集めよう。すべては復讐のために」


「良かったじゃありませんか。復讐相手は自らの手で殺さねば意味がありません。今一度、あの屑を殺すチャンスが降ってわいたのです。これほど血沸き肉躍ることはありませんわ」


 莉世は底冷えするような低い声で言った。


「ああ。神が、俺に再び晴明に挑むチャンスをくれたのだろう。次は……必ず」


 俺は再戦を誓う。




 俺が自宅に帰る途中、HP上に試験結果が発表された。


一位:九八六六チーム  三百四点 MVP「芦屋道弥」

二位:三四六一チーム  四十一点 MVP「羽山正弦」

三位:一四六二三チーム 三十六点 MVP「安倍夜月」

四位:二五五五チーム  三十二点 MVP「戸田有斗」

五位:一八二二三チーム 三十一点 MVP「加茂紫」

・ 


 五位までの各チームで最も活躍した者がMVPとして、四級陰陽師からスタートが切れる。

 例年のMVPは御三家である「安倍家」「宝華院家」「加茂家」で占められることが多いが、今年は半分以上が、御三家以外である。

 当たり前だが、試験結果は俺のチームが一位。


 飛び級した五人の名前の一位には芦屋道弥の名が掲載されている。

 三位には夜月の名前が。

 これで少しは、芦屋家の汚名を返上できれば良いのだが。そう思い俺は実家へ戻った。


 自宅付近で真から降りて歩いていると、自宅前には父と母が立っていた。


「ただいま」


 わざわざ家の前で待っていてくれていたのか。

 俺を見て、母はにっこりと笑っている。


「おかえりなさい、道弥。お疲れ様」


 太陽のような笑顔だ。

 一方、父は今にも泣きそうなくしゃりとした顔でこちらを見ている。


「道弥、ト、トップで受かったんだな。テレビで見たよ。よく頑張った。嬉しいよ。今までずっと笑われていた芦屋家の子供が一位で合格だ。安倍家も宝華院家も、ざまあみろだ」


 そう言って、父は言葉を切った。目からは大粒の涙が溢れている。


「私は今日ほど嬉しい日はない。道弥が居れば、芦屋家は安泰だ。実は……俺は今まで何度も、何度ももう陰陽師を辞めた方がいいんじゃないか、と思っていた。馬鹿にされてばかりで結果も残せやしない。実力も、足りないんだ、俺は! だが、道弥が立派に育ってくれた。俺が陰陽師を辞めなかったことは無駄じゃなかったんだ!」


 父はそう言って、泣いた。

 日々虐げられ、馬鹿にされそのような状況で陰陽師として働き続けるのは大変だっただろう。

 だが、父は折れなかった。いつか必ず、芦屋家が復興すると信じて。


「父さん、まだ早いよ。芦屋家はこれから復興するんだから。すぐに陰陽師といえば芦屋家というくらいまで復興させる」


 俺は父を見て笑った。


「道弥が言うと、本当にそうなりそうだ」


 父は涙でぐしゃぐしゃになった顔で笑った。




 夜月は家でテレビを見ていた。

 テレビは想像通り道弥の話題で持ちきりだった。


『本日、陰陽師試験の最終結果が出ました。最終合格者数は二百一人と例年程度ですが、今年は怪物とも言える新人が出てきましたね』


 普段は陰陽師についてそれほど話題にしないニュース番組でも、この日は別だった。

 アナウンサーの言葉に、狩衣を着た陰陽師が答える。


『芦屋道弥君ですね。二位が四十点であるのに、三百点越え。まさしく怪物でしょう。二次試験でも三秒という記録で話題になっていましたが、最終試験で名実ともに今年のトップの座に君臨しましたね。まだ十五歳でその才覚、末恐ろしい』


『芦屋家というのはあまり聞いたことはないのですが、その界隈では有名なのですか?』


 アナウンサーの言葉に、陰陽師は難しい顔をする。


『有名でない、というのも嘘になるんですが。あまり有名ではないですね、特に現代においては。ですが、過去には最強と名高い安倍晴明と互角と言われている芦屋道満を輩出した名門です。時を超えて、再び怪物が生まれたとしても驚きませんね。今大手の陰陽師事務所は道弥君のスカウトのために、躍起になっているでしょうね。彼はすぐに台頭する。うちも欲しいくらいですよ』


 と陰陽師は笑いながら言う。

 それを見ながら夜月も嬉しそうだった。


(ようやく道弥の凄さが、皆に広まるようになったんだ。道弥は本当に凄い。正しく評価されればきっとすぐに一級になって、芦屋家も馬鹿にされなくなるはずだ)


 すると、玄関の扉が開く音が聞こえる。


「誰だ?」


 夜月は立ち上がると、玄関に向かう。


「兄さん!」


 夜月は帰って来た家族を見て、嬉しそうな声を上げる。


「夜月、おめでとう。三位だったね。いきなり四級だ。よく頑張った」


「ありがとう、兄さん。兄さんもお仕事お疲れ様」


「ありがとう、夜月。少し疲れたよ」


 夜月はいつもと少し雰囲気が違う兄に首を傾げる。


「今日はいつもより機嫌がいいね」


「そうかい? 久しぶりに昔の知り合いに会ってね」


 そう言って笑ったのは安倍晴海(あべせいかい)。

 第一級陰陽師にして安倍夜月の兄、晴海であった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

『あとがき』

ここまで読んでくださりありがとうございます。これで1章は終了です。

楽しんでもらえたなら嬉しいです。

現在二章のプロットを作成中です。しばらくお待ちください。


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