第70話 よくも

 俺は晴明の姿を見た瞬間、理解した。

 こいつも転生していたのだと。

 俺と変わらぬ陰陽術をもつ晴明があっさりと寿命で死ぬ訳もない。

 俺と同じように現代に居たのだ。


「お前……よく俺の前に顔を出せたな。俺は覚えているぞ、我が一族にした悪逆非道な行いの数々。今でも昨日のことのように思い出せる! 莉世、真!」


 俺は二人を召喚する。


「晴明……生きておったか!」


「よくも私達の前に顔を出せましたね。今日こそは首を飛ばしてあげます」


 莉世と真を見ても、晴明は全く驚く様子もない。


「大口真神と九尾狐か。千年前にも見た式神だね。じゃあこちらも同窓会といこうか」


 晴明はそう言うと、白虎を召喚する。

 白虎。

 伝説の神獣である四神の一匹であり、千年前に晴明の名を大いに知らしめた十二神将の一匹である。

 晴明は神の如き十二匹の式神を使役し、最強の名を得たのである。


「真神か……まだ死んでいなかったのか」


 白虎は真神を睨む。


「こちらの台詞だ。たかが虎が狼に敵うと思うか?」


「試してみるか?」


 真と白虎がお互いに唸りながら睨みあっている。

 殺してやる!

 俺は護符を取り出す。

 だが、そんな俺に後ろから抱き着く者が居た。

 俺を監視していた試験官だ。


「何をしている! 晴海様に手を出したら、君は失格だぞ!」


「そんなことはどうでもいい! こいつだけは殺さなければならんのだ!」


「君の合格を、家族が待っているんじゃないのか! 一級陰陽師に歯向かったら本当に芦屋家は終わりだぞ。芦屋家を復興させるんじゃないのか、君は!」


 試験官の言葉を聞き、俺は動きを止める。

 そこで父の顔が思い浮かぶ。


(お前なら必ず合格できるよ。自慢の息子だ。どうか、芦屋家の無念を晴らしてくれ)


 そう辛そうな顔で言った父の顔だ。

 ここでこいつを殺しても芦屋家は復興なんてしない。それどころか永久追放だろう。

 俺は歯を食いしばり、晴明を見据える。


「来ないのかい?」


 晴明は笑う。


「すみません。彼は混乱しているようです。どうかお許しを。彼は将来、きっと陰陽師界を背負う男です」


 そう言って、試験官の男は頭を下げた。


「ふうん、つまらないな。まあいいや。今回だけは不問にしてあげる。うちの者もお世話になったようだからね」


 そう言って、晴明は白虎を帰還させ、こちらに近づいてきた。

 警戒する俺の耳元で囁く。


「まだ力は殆ど戻っていないようだね。全盛期とは程遠い。そのレベルじゃあ、僕は倒せない」


「黙れ……! 覚えていろ、晴明! 必ず、必ず復讐してやるからな」


「楽しみにしているよ、道弥君」


 晴明は笑いながら去っていった。




 晴明が去っていった後、俺は落ち着くように息を整える。

 そこで感じたのは現在の奴との力の差だ。

 俺は今世で増えた分を合わせても全盛期の五割ほどしかない。

 だが奴は全盛期以上の力を持っていた。

 おそらく霊力だと今の俺の倍以上あるだろう。


 俺のかつての全盛期でも、今の奴には勝てない。

 鍛錬が足りない。俺は現在、日々霊力が増えている。

 さらなる鍛錬を積み、必ずあの男に地獄を見せてやる。


「おい、大丈夫か? 随分混乱していたようだが」


 試験官からの声で俺は我に返る。


「……先ほどはありがとうございました」


「何をしているんだ。いくら君が強いと言えど、彼は一級。しかも既に一級の中でもトップクラスと言われている晴海様だ。厳しいだろう」


「あいつは……俺の。いや、おっしゃる通りです。すみません、我を失いました」


「先ほどの話は聞かなかったことにしておくよ。私の理解を超えているからな。だが、今暴れるのは得策ではない。芦屋家を復興するのだろう?」


「はい。必ず」


「君ならできるさ。私の名前は八百やおすばる。三級陰陽師で、都内で八百陰陽師事務所を経営している。何か困ったことがあったらいつでもくるといい」


「ありがとうございます。だが、なぜそこまでしてくださるのですか?」


「そうだな。恥ずかしいが、君のファンになってしまったのだ。信じるかい?」


 八百さんははにかむように笑った。


「……信じます。八百さん、またよろしくお願いします」


 俺は八百さんに頭を下げて、その場を去った。

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