第69話 久しぶりだね
俺達は入り口に戻ると、大量の勾玉を回収担当の試験官に渡す。
「白を二つも……」
「くれぐれも数を間違えないようにお願いいたしますね。白は二つあるので」
俺は念を押しておく。
合否は今日の夜、ホームページで発表されるようだ。
俺達は皆、別れの挨拶を告げた。
「道弥さん、短い期間でしたが、ありがとうございます。おかげで久しぶりに本物の陰陽師を見れました」
「道弥君のおかげで、なんとか合格できました。ありがとうございます」
二人は頭を下げてきた。
「こちらこそ。楽しい四日間だったよ」
俺も素直にそう返した。
馬鹿共も多かったけど。
二人と別れ、俺は帰るために人気のないところへ向かう。
勿論真に送ってもらうためだ。
そして、真を召喚する寸前、どかどかとこちらに走ってくる姿があった。
「おい! 芦屋のガキ~! 一体何をした!」
それは俺の邪魔をしてきたデブだった。
「なぜお前が一位なんだ。そして宝華院家の兄弟が二人ともリタイアだと。いったい何をした!」
デブは呼吸を荒げながら、怒鳴る。
「俺が強く、奴等が弱かった。それだけのことだ」
「俺は必ずお前の不正を暴いて、失格にしてやる。芦屋家が一位など取れる訳がないからな」
と下卑た笑みを浮かべる。
本当にしつこいな、こいつ。
「貴方こそ、何をやっていたのですか?」
デブに後ろから声をかけたのは二十代前半の青年だった。
すらりとした体に、爽やかな顔。目鼻立ちはくっきりとしており、モデルのように整っている。
前髪を揃え、艶のある長髪を伸ばしており、それがどこか似合っていた。
だが、そんなことはどうでもいいくらい俺は奴に目を奪われた。
「せ、
晴海という男に声をかけられたデブは見てわかるほどうろたえ始める。
「西の妖怪を祓うのに少し時間がかかりました。そんなことはいい。変異種は試験に出さないように厳命していたはずですが、どういうおつもりですか?」
晴海は冷静にだが、静かな怒りを込めて尋ねた。
「偶然出たのでは……? わしは知りませんな」
「しかも彼が芦屋家だからと言って、くだらない言いがかりを。この試験では、しっかりと試験官がついてみていたはずです。出てきなさい」
そう言うと、晴海の後ろから俺の試験官が出てきた。
「はい」
「貴方に問います。彼は不正を行っていたのですか?」
「我が名に懸けて答えます。彼は不正などせず、正々堂々と試験を受けておりました」
「そういうことです。四条隆二、私利に溺れた罪はしっかりと償ってもらいますよ。数々の職権乱用、全て裏は取れています。協会内からの追放、降格程度ではもはや済みません。四条家当主の座も降りてもらいます」
晴海の言葉を聞き、デブは歯が割れんばかりに歯ぎしりをしていた。
「何も知らぬ若造が……」
デブは護符を胸元から取り出す。だが、晴海とやらと目が合った瞬間に、戦意を失ったようだ。
デブは顔を真っ青にし、静かに膝をつく。その手は震えている。
「俺は何もやっておらん……全ては陰陽師協会のために……」
「沙汰は後日言い渡します。失せなさい」
デブは絶望した顔で、ふらふらとどこかへ消えていった。
デブが去った後、晴海とやらはこちらへやって来た。
「君、すまないね」
だが、俺はこいつの言葉など全く頭に入ってこなかった。
声ではない、雰囲気、霊力、全てが俺に告げている。
怒りで頭の中が真っ白になった。全身の血が沸騰したかのように体が熱い。ただ、憎しみが、憎悪が体からあふれ出す。
「
「久しぶりだね、道満。千年後にまた会うなんて」
俺の言葉に、姿の変わった安倍晴明は笑いながら答えた。
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