第68話 試験終了

「分かった! わ、分かりました! 俺の負けです。絶対に芦屋、さん、の知り合いには手なんて出しません。約束します! お金も払います! だから、見逃してください」


 勝てないと悟った渚は必死の懇願を見せた。

 先ほどの態度のでかさが嘘のようなへりくだり方だった。


「今更見逃せ?」


「宝華院家次期党首候補として、試験に落ちたなんて言えません。必ず大金も払いますし! なんなら道弥さんが今後出世する時の手助けもできます。宝華院家は陰陽師協会にも数が多いんです!」


 それを聞いた俺は莉世に言う。


「莉世、足を放してやれ」


 莉世が足を上げる。


「あ、ありがとうございます! この恩は必ず返します! 俺は試験に落ちる訳には――」


「燃やせ」


 俺の言葉を聞き、笑みを浮かべた莉世はその前足をかざす。


「狐火・炎竜巻えんのたつまき


 莉世の前足から、炎を渦が生まれ、その渦は渚を包み、はるか上空まで渚を吹き飛ばした。


「ぎゃああああ!」


 竜巻によって、体が切り刻まれ炎に焼かれた渚は悲鳴を上げる。

 宙を舞った渚はそのまま地面に叩きつけられた。

 鈍い音と共に渚は白目を剥いて倒れこむ。その姿は弟にそっくりだった。


「誰が逃がしてやると言った。間抜けが。お前如きの手助けなど要らんわ」


 俺は吐き捨てるように渚に告げた。




 俺はすぐに桃慈の元へ駆け寄り、莉世に告げる。


「治療してやってくれ」


「分かりましたわ」


 莉世はいつもの人間の姿に戻ると、桃慈を治療する。

 腹部はかなりの重症だったが、すぐに完治した。


「桃慈、俺の我が儘で世話をかけたな」


「良いんですよ、道弥さん。少しでも役に立ったなら嬉しいです。姐さんも、何度も治療ありがとうございます」


「本当ですよ。すぐ傷だらけになるんですから。もっと強くなりなさい。あんな雑魚にやられるようでは一流の陰陽師にはなれませんよ?」


 


「了解です」


 叱られながらも、桃慈はどこか嬉しそうに笑う。やはり……ドエムなのか?


「ゆずもありがとうな。桃慈と一緒にしっかりと勾玉を守ってくれて」


「同じチームなんだから当然ですよ。少しは役に立てて良かったです。最後はまた助けてもらいましたけど」


「いや、しっかりと守ってくれた」


 俺達は倒れる渚達からも勾玉を集める。

 渚達から四十三点、これで合計三百七点だ。


「三百超えたか」


「断トツですよ、これじゃ」


 ゆずが驚いたように言う。

 それから二日後の朝、試験は終了した。




 朝、ブザー音が森中に響き渡る。


『只今を持って、最終試験を終了いたします! 戦闘をおやめください! 戦闘中の者はむりやり試験官が止めに入ります。試験官に従って、入口に戻り、勾玉を回収します!』


 けたたましい音と共に終わりが告げられる。


 すると、木の上から試験官が降って来た。降って来たのは、一次試験でデブから俺を庇った試験官だった。


「試験は終了だ。入口に案内する。付いて来てくれ」


「四日間監視お疲れさまでした」


「君に護衛など必要ないだろうがな。白光山の九尾すら従える者など、夢物語だと思っていたよ」


 試験官は呆れるように言った。


「秘密でお願いします」


「余計なことは言わないさ。だが、隠せるとは思わないことだ。完全顕現の時、おそらく委員会は大騒ぎだっただろうからな」


「式神を完全に隠し通すことは不可能でしょうからそこまでは期待してませんよ。けど、これでようやくスタートラインに立てる」


 俺はそう呟いた。

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