第65話 見事

 白い中鬼は俺を見て、どう猛に笑う。


「遂に来たか、本物が! お前が強者だな。近くにいるだけで肌が粟立つこの感覚……化物だ!」


「お前は強者との戦いを望んでいたんだろう? お望み通り来てやったんだぜ?」


「まだ子供……だが分かる。圧倒的威圧感……今まであった生物の中でお前が一番強い。俺のこん棒が当たれば間違いなく、一撃で殺せるはずなのにな」


「びびってるのか? 俺は何もしてないぞ?」


 そう言って挑発すると、中鬼は夜月を手放した。

 俺がそれを受け止めると、その隙にこん棒を高く上げる。

 こん棒には稲妻が纏われていた。


雷鳴閃らいめいせん!」


 雷を纏ったその一振りが俺めがけて振り下ろされた。こん棒が結界にあたり、大きく爆ぜた。

 だが、その一撃も俺の結界を砕くことはできなかった。

 それを感じた中鬼は大きく俺と距離を取る。その顔には汗がにじんでいた。


「びくともせんな。まるで巨木を殴ったかのような揺るぎなさ。圧倒的力だ。お前は俺よりはるか格上だろう。だが、俺の最後の相手に相応しい! 全力で行かせてもらう!」


 中鬼は構えをとる。

 本気の一撃なのだろう。

 その潔さに俺は好感を持つ。


「その覚悟に免じて、俺も武器をとろう」


 俺は護符を取り出す。

 中鬼は再びこん棒に稲妻を纏わせる。その稲妻は嵐のようにこん棒に渦巻いた。


「有り難し。雷鳴天嵐らいめいてんらん!」


 中鬼は渾身の一振りを下から救い上げるように放つ。同時に稲妻が嵐のように渦巻いてこちらへ飛来する。


「火行・煌炎こうえん


 煌煌と輝く小さな火花が護符から放たれる。その小さな火花は嵐を裂くかのように吹き飛ばし、そのまま中鬼を貫く。

 その炎はそのまま中鬼全体を包み込んだ。

 全身を炎に包まれながらも、中鬼はこちらを冷静に見つめていた。


「力不足か、無念」


「力は足りなかったが、その覚悟は見事。再びあの世で自らを鍛えるが良い。その炎は貴様への手向けだ」


 その炎は煌煌と、中鬼を燃やし尽くした。

 その後には、ただ白い勾玉だけが残っている。


「助けてくれてありがとう。やっぱり強いな、道弥は。三級など、ものともしない」


 夜月は少しだけ悲しそうに言った。


「俺は師匠だからな。後で気まずくなるまでに伝えておこう。俺はお前が言いたいことをもう知ってしまった。だから、もう悩まなくていい」


 俺の言葉を聞いた夜月の顔が大きく歪む。


「そうか……やはりあの男は私との約束を守る気などなかったか……。せめて私の口から伝えたかったよ」


「色々言いたいことはあるが……今まで隠し続けるのは辛かっただろう。気付いてやれないで、すまなかったな」


 俺はそうとしか告げられなかった。


「私が隠そうとしていたから。それに道弥は陰陽術以外に関しては鈍感だからな」


 夜月はそう小さく笑った。

 歪な関係。

 だが、そんな関係を俺は止められなかった。


「すまんが、俺はもう行く。仲間を放置してきてしまったからな。一人で大丈夫か?」


「大丈夫だ。私は、道弥の一番弟子だからな」


「最終日まで残れよ」


「ああ」


 俺は夜月を置いて、仲間の元へ再び翔けた。

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