第64話 やってみろや
俺は駆けつける直前、行く当てもなく森をさ迷っていた。
未だにどうしていいか分からずに、もやもやとしていた。
先ほどの口論を聞いていたのか、ゆずとリーゼントも静かなものだ。
「主様、お耳に入れたいことが」
そんな俺に真が耳打ちする。
「なんだ?」
「この森に一体だけ、強い妖気を持つ者が居ます。おそらく三級上位程度」
「そうか。見習いの試験で三級レベルとは、思ったより命がけの試験らしい。もう十分ポイントはある。別にわざわざ狩りに行かなくてもいいだろう」
俺は今更妖怪達を狩る気にならなかった。
「ですが、その妖怪は夜月様の近くにいるようで。このままでは戦闘になります。式神的に祓うのは難しいかと、いかがなさいますか?」
「本当か?」
さきほど、情を持つなと言われたばかりだが……。
俺は目をつむる。
が、やはり答えは一つだ。
夜月が襲われているのに、放置などできない。
汚名を着せられ、裏切られた安倍家の子孫を助けに向かうなんて、親族に顔向けできんな。
ふと、空に再び八咫烏が飛んでいるのが見えた。
「真」
「はっ」
次の瞬間、八咫烏は消し飛ぶ。
誰かが、こちらを偵察しているということはゆず達が襲われる危険があるということだ。
チームメイトの危険を知りながら、知り合いを助けに行くという行為が、既に私情としかいいようがない。
だが……。
「ゆず、リーゼント、本当にすまないが、俺の知り合いに命の危険が迫っているようだ。少しの間だけ、この場を離れて北へ向かう」
俺は二人に頭を下げる。
「行ってあげて下さい」
ゆずが微笑む。
「リーゼント、俺が戻ってくるまでゆずを守ってくれ。頼んだぞ」
俺はリーゼントを見据えて告げる。
「応! 任せて下さい。必ず道弥さんが戻ってくるまで、勾玉を守ります!」
リーゼントは胸を叩いて、笑う。
「真、行くぞ!」
俺は真に乗ると北へ向かった。
道弥が去った後にゆずが心配そうな顔に変わる。
「道弥君いなくて大丈夫かなあ?」
「大丈夫でも、なくても道弥さんから頼まれたんだ。漢ならはい以外はありえねえぜ」
リーゼントこと桃慈は周囲から人の気配を感じとった。
「早速来やがったか……。誰だあ、お前ら!」
桃慈が森に向かって叫ぶ。
すると、森の中から多くの陰陽師が現れる。
その中には渚の姿があった。
「君達が芦屋の仲間だね。残念ながら本人は居ないようだが。悪いが持っている勾玉を全て渡してくれないか? 弱い者虐めは趣味じゃないんだ」
と渚が居る。
「宝華院渚さん……陸さんのお兄さんです!」
ゆずが怯えたように言う。
「悪いが絶対渡せねえ! 大事な漢から頼まれてるんでよ!」
桃慈はリーゼントを両手で触れながら笑う。
「これだから……馬鹿は嫌いだよ。身の程を教えてやれ」
渚の言葉と同時に複数の式神が召喚される。
「やってみろや、お坊ちゃんがよお!」
桃慈は人差し指を立てた。
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