第63話 強者が来たぞ

「ええ!? 絶対勝てないよ! 明らかに中鬼レベルじゃないもん!」


 サクラは夜月に向かって叫ぶ。


「私も護符でサポートするから」


「鬼! 死んだら化けて出てやるんだから!」


 サクラは葉っぱを頭に乗せると、変化の術を使う。

 すると、サクラは先ほどの姿とは大きく変わって、巨大な鬼の姿となった。

 全長五メートルを超える大鬼。

 その姿に、中鬼は初めて興味を持った。


「ほう」


 大鬼になったサクラはその巨体で中鬼に襲い掛かる。

 その拳が中鬼に触れる直前、再び変化の術を使う。

 変化の術と共に煙が辺りを包み込む。

 中鬼は周囲を見渡す。


(敵はどこだ?)


 中鬼は空が暗くなったことを感じ上を振りむくと、上空から巨大な重しとなったサクラが落下してきていた。

 中鬼は重しに圧し潰される。


 「どう?」


 夜月はその様子を見ていたが、中鬼はその重しをその体で耐えきっていた。


「少し、効いた」


 中鬼は笑うと、その拳を重しとなったサクラに振るう。

 夜月は護符を投げ、咄嗟に結界でサクラをかばう。

 だが、中鬼は結界ごとサクラを殴り飛ばした。

 サクラは何メートルも吹き飛ばされ、そのまま狸の姿に戻ってしまう。


「き、効いたァ」


 さくらの口元からは血が漏れる


(やはり勝てない、か。他の皆が逃げる時間は稼いだ)


「逃げるぞ、サクラ」


 サクラは立ち上がると、再び少女の姿に化ける。


「夜月、逃げて。少しだけ時間を稼ぐから」


 サクラは覚悟を決めた顔で、中鬼を見据える。


「……ごめん。頼んだ」


 夜月はそう呟くと、走る。

 十秒ほどで、サクラとの繋がりが途切れることを感じた。サクラが祓われたのだ。

 背後からは中鬼が凄い速度で追ってきていた。


「逃げるのか? 死ぬ前に、もっと強い者を寄越せ。俺を圧倒する、強き者を!」


「知るか!」


 投げやりに夜月は返す。夜月は護符を取り出すと、呪を唱える。


金行こんぎょう鉄甲壁てっこうへき


 夜月を覆い隠すように、鉄製の丸みを帯びた壁が地面から生える。


「ハハ!」


 中鬼は笑うと、妖気をこん棒に纏わせ、壁に打ちつける。


 金属がぶつかる甲高い音が森に響くと、鉄壁が粉々に砕かれた。


(駄目か)


 夜月はそれでもなお必死で逃げる。

 そして遂に掴まった。

 中鬼は夜月の胸倉を掴むと、そのまま高く持ち上げる。


(まさか試験でこんな化け物と出会うとは……明らかに試験のレベルを超える強さ。何が起こっているのか)


「つまらん。やはりお前は強き者ではなかったか。残念だ」


 中鬼は夜月めがけてこん棒を構える。

 夜月は死を覚悟し、静かに目を閉じる。そんな夜月めがけて、静かにこん棒が振り下ろされた。

 だが、夜月は一向に振り下ろされないこん棒に疑問を持ち、目を開ける。

 そこには結界でそのこん棒を易々と受け止める道弥の姿があった。


「俺の弟子に、何をしてるんだ? お前」


 鋭い眼光で中鬼を見据える道弥を見た夜月は笑いながら言う。


「白い中鬼よ、お前が望む強者が来たぞ?」

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