第47話 地獄の中でこそ

 それを皮切りに四方から合計九人と陰陽師が俺達を囲むように姿を見せた。

 まあ、随分前から気付いて放置しておいたんが……すっかり勝ち誇っているな。


「おいおい、どうするんだよ……。無理やり突破するか?」


 リーゼントが言う。

 ゆずに至っては囲まれたせいかパニックになっている。


「お前の勾玉さえ奪えれば合格どころか、トップ五も夢じゃない! 呑気に森を歩きやがって、馬鹿め! 皆、召喚しろ!」


 青年の声と共に、敵の陰陽師が一斉に式神を召喚する。五級、六級の妖怪が計二十匹程度一度に召喚される。


「一度に襲い掛かれ!」


 青年の声と同時に陰陽師達と妖怪が一度に襲い掛かって来た。

 青年の目はしっかりと白い勾玉を持つゆずに向けられている。数の利で混乱させ勾玉を奪い取る算段のようだ。


「急造チームにしては最低限練られておるな。そしてその程度で取れると思っているところが、甘いな」


 俺はそう言って笑う。

 昔稽古をつけていた子達もこうして数の利で襲い掛かって来た子が居た。


「少し稽古をつけてやる。木行もくぎょうもく縛り」


 俺は護符を手に取ると、呪を唱える。

 同時に敵全員の地面から木が生え始める。その木は妖怪と、敵の陰陽師に巻き付くように急成長する。


「えっ?」


「嘘だろ!? 木縛りはもっと蔦みたいな……」


「はやっ……!」


 突然生えてきた木々に敵はパニックになる。絡みついた木は妖怪達を締め付けそのまま締め潰した。

 それを見て敵は皆顔を真っ青にする。自分達もこのまま殺されるのではないかと。


「た、助け……」


 怯えた顔で、手を伸ばす。


「ばいばい」


 俺は笑顔で手を振る。それを見た敵は恐怖で固まった。

 そのまま生み出した木は陰陽師を締め付け、そのまま気を失わせた。


「冗談だ。殺すわけないだろう」


 先ほどいきっていた青年陰陽師は恐怖からかズボンを濡らしていた。やりすぎたか。

 リーゼントとゆずの方を見ると、二人とも今起こったことが理解できないのか呆然としている。


「木縛りって、敵の足を引っかけるような細い蔦が生えるだけなんじゃ?」


「それは術者の技量が足りん。本来は大型の妖怪をも拘束できる術だ」


「本当の陰陽術って、こんなすげえのかよ……」


 リーゼントに至っては大きく口を開けて呆けている。


「お前ら、こいつらの勾玉を探せ。絶対誰かが持っているはずだ」


 女の陰陽師をゆずに探らせ、俺達は男達も服をまさぐる。狩衣にはポケットがないため、皆首からぶら下げていたので一瞬で見つかった。


「やっぱり皆、一点の赤勾玉か。だが、これで三点」


 百点に比べれば誤差だが、多いにこしたことはないだろう。

 リーゼントがこちらにやってくる。

 先ほどまでの無礼を謝りにきたか?

 だが、出てくる言葉は全く違った。


「おい、道弥。俺はまだお前を認めてねえ。漢ってのは、強ええだけじゃ駄目なんだ。覚えとけ」


 思い切り睨みながらこの一言である。


『やっぱり殺しますか? こいつをリタイアさせても減点は五点でしょう? 十分合格できます』


 莉世はかなり苛々しているようだ。

 随分我慢をさせているため当然だろう。

 式神になる前は、むかつく者は全て殺していた彼女だ。

 どこかでガス抜きさせないとまずいかもしれない。


『試験中はおとなしくしててくれ』


 今自由にさせたらあのデブは絶対殺されるに違いない。


「あ、あの……あの人達ここで放置してて大丈夫なんでしょうか?」


 ゆずは木に絡みつかれたまま気絶している敵を見て心配そうに呟く。


「大丈夫だ。上級陰陽師がこちらを見張っている。おそらく一チームに一人。きっとそいつらがこいつらを救助してくれるさ」


 俺はそう言って、木々の上を見る。

 返事はないが、木の上には試験官が居る。

 見張りが居ないと、この試験は死人が出る可能性がある。未成年を試験に参加させる以上死人は出したくないのだろう。


「お優しいことだ。このような純粋培養な陰陽師に、本物の妖怪を倒せるかは疑問だがな」


 俺は過去を思い出す。

 万をこえる犠牲が出て、何百人もの陰陽師が死に、そんな地獄の中でこそ本物の陰陽師が生まれたことがあったからだ。

 だが、一方で社会が整備させたお陰で、死人が大きく減っているのも事実。

 どちらが正解かは俺には分からない。


「知りませんでした」


「まじかよ! 俺達も見張られてんのか? トイレもいけねえぜ!」


 リーゼントが謎の心配をしている。誰もお前のトイレなんて見たくねえよ。

 俺達は敵の陰陽師を放置して、森の奥へ向かった。

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