第43話 陰陽師試験委員会
陰陽師試験を統括する陰陽師試験委員会も道弥の結果に大きく動揺していた。
会議室には十を超える試験官が集まって議論を交わしている。
「この結果は本当なのか? 三秒なんて、とても信じられん」
「不正は見られませんでした。不正がなければ、合格を言い渡すしかありません」
「初級陰陽術である鬼火がそれほどの威力と言うのが、まずおかしい。不正に呪具か護符を持ち込んだのでは?」
「ですが彼は一次試験で霊幻草を紫に変化させています。実力上ありえない訳ではないのではないでしょうか?」
と激論を重ねている。
誰も口にしないが皆、もし事実なら明らかに二級以上の実力があると感じていた。
そこで机を大きく叩く音が会議室に響き渡る。
「まず……なぜそんな事態になって副統括である俺に報告しなかった。その場で合格を言い渡すとは。おかげで三秒という記録が世間に広まってしまった。今更不正でしたなど言えん。芦屋家という悪名高き一族が今年の一位など認められるか!」
そう顎の肉を震わせながら叫んだのは、四条家当主の四条隆二(しじょうりゅうじ)。
道弥がデブと呼んでいた男だ。
「おい、最終試験の初期位置を見せろ」
「は、はい」
隆二は部下から無理やり資料を奪い取ると、にたりと笑う。
「最終試験は儂も現地に行く。そして、本番ではアレも放て。場所は芦屋家の小僧の初期位置から近いところでな」
「ですが、アレは試験レベルではないため統括から試験では使わないように、というお言葉が……」
部下は隆二の言葉に難色を示す。隆二は部下の胸倉を掴み上に持ち上げる。
「その統括が居ないのだ。統括が居ない場合は、副統括である儂の言葉が優先に決まっているだろうが! 下らんことを抜かすな。分かったか!」
「はい!」
「これだから無能は……!」
隆二は部下を地面に投げ捨てると、部屋を出ていった。
「おい、大丈夫か?」
投げ捨てられた男の元へ同僚が声をかける。
「無茶苦茶だよあの人……。統括が別仕事で居ないからって好き放題だ」
「今回の試験官の中でも古株だしな。あんな変異種出すなんて……怪我じゃすまない奴が出てくるぞ」
「いくらなんでも芦屋家を嫌いすぎじゃないか?」
「あの人家柄至上主義だからなあ。特に今年は宝華院家の兄弟も出ているからな。あの二人を一位二位に据えたかったんだろう」
「今は名家以外からも凄い陰陽師が出てるのになあ」
「それも気に入らないんじゃない? 自分より下と思っていた芦屋家から出るのも、嫌なんだろう」
「はあ……当日の試験官に注意してもらうしかないな」
「統括早く戻ってこないかなあ。俺、ファンなんだよね。一度会ってみたかったんだ」
「安倍家の新星だもんな。次の陰陽師界を背負うのは間違いなくあの人だよ。今も一級妖怪を討伐依頼に行ってるんだろ? 恰好良いよなあ」
試験官達は最終試験のことを考えることを辞めた。
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