第42話 九八六六
一方、一位の三秒という数字はよほどセンセーションだったのか、テレビでも大きく取り上げた。
普段は政治系のニュースしかやっていないニュース番組でも陰陽師試験について取り上げている。
『本日行われていた陰陽師試験二次試験の結果が発表されました。なんと一位は三秒と二位と大きな差をつけ、話題となっております。陰陽師協会に問い合わせたところ、一位である受験番号九八六六に関する情報は個人情報を理由として、うかがうことはできませんでした。しかし、歴代でも例を見ない数字から将来の一級陰陽師として既に期待の声があがっています。二級陰陽師の花藤さん、この結果について、どう思われますか?』
と女性アナウンサーが話した後、中年の陰陽師が写される。
「試験内容的に、二級陰陽師以上なら十秒以内の結果も不可能ではありません。ですが、恐ろしいのはその結果をまだ陰陽師免許も持っていない見習いが叩き出したことです。もしその受験生がどこかの家の所属でなければ、大手陰陽師事務所で取り合いになることは間違いないでしょう」
「では、一位は既に二級陰陽師クラスだということでしょうか?」
「これだけではなんとも言えません。あらかじめ試験内容を予想したうえで、護符を結界解除のみに当てた可能性もあります。それでも上級陰陽師以上の実力はないと難しいでしょうが……」
「なるほど。日本は他国に比べても妖怪が多い妖怪大国です。にもかかわらず一級陰陽師以上の人数は未だに多くありません。今回は優秀な人材が出たことを喜ぶべきですね」
「それは間違いありません。御三家の者だろうが、他家であろうが日本を守る優秀な新人が出たことは喜ぶことでしょう。私も期待しております」
そう言って、ニュースは締めくくられた。
SNSサイトを見ても、多くの者が正体不明の九八六六の正体について調べようと躍起になっている。
多くの者が御三家の誰か、又は大手陰陽師一族の新人だと予想している。
誰も芦屋家とは思ってすらいないだろう。
先ほど陰陽師試験委員会からメールが届いていた。最終試験の案内だ。
最終試験の場所は夢ヶ原。青森県と秋田県にまたがる巨大な森林地帯だ。その広大な森林は東京ドーム三千六百個分とも言われており、現在では多くの妖怪で溢れた危険地帯としても知られている。
試験は三日後の午前九時から四日間。
受験生はランダムに割り振られた三人チームで、四日間森の中でサバイバルを行うようだ。
「へえ。サバイバルですか? なら何をしても許されそうですねえ」
とスマホの画面を見た莉世が笑う。
顕現している莉世はいつもの着物姿ではなくセーラー服を着ている。
黒を基調としたセーラー服は莉世にとてもよく似合っているが、なぜセーラー服なのだろうか。
「現代男性はセーラー服が好きだと、ネットで見ました。道弥様のために着ましたが、いかがですか?」
とくるりと一回転して笑う。
正直、俺の趣味だと誤解されそうだから辞めて欲しい。
「着物も似合っているぞ?」
「セーラー服はお嫌いですか?」
と涙目でこちらに目線を向ける。
あざとい。
「似合ってるよ、はあ」
「良かったです~! やっぱり男性はセーラー服が好きなんですね!」
最近莉世は暇なとき、俺の部屋でパソコンで情報を収集している。変なことばかり吸収しないか不安だ。
だが、すっかりご機嫌な莉世に余計なことを言う気にはなれず、放置することにした。
メールには細かい試験内容が書かれていない。
現地で説明するつもりなんだろうか?
青森とは中々遠いなあ。
金もないし、真に送ってもらうか。
俺は最終試験についてのんびり考えていた。
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