第41話 本物の鬼火

 どんどん人が呼ばれていく。

 俺も呼ばれて第五フロアに向かった。


 第五フロアに入ると、そこには大きな結界内で妖怪達と戦っている受験生が見える。

 会場を傷つけないように二十五メートル四方の結界が張られており、その奥には小さな水晶が置かれている。

 水晶を包むように更に結界が張られている。


 受験生の青年は自分の式神と護符を使い進もうとしているが、それを十を超える妖怪が邪魔している。

 レベル的には五級妖怪が二体。六級妖怪が十体ほどか。

 数の利が敵にあるせいか、受験生は攻めあぐねていた。


火行かぎょう・連火」


 受験生が護符を使い、陰陽術を発動させる。野球ボールほどの火の玉が七個ほど妖怪に襲い掛かる。

 それに合わせて、受験生が使役している小赤鬼が敵の妖怪に襲い掛かる。


 小赤鬼とは火の技を使う五級妖怪である。八歳児くらいの小柄な体ながら、大人並の力を持ち、陰陽師見習いがよく使役している妖怪とも言える。

 受験生は激しい戦いののち、ようやく妖怪を祓い終わった。


 だが……。


『試験終了です』


 結局彼は結界を解く時間がなく、無慈悲にも不合格となった。

 次の受験生は先ほどの敗北を見たためか、自分の式神をおとりにして、一気に水晶の結界近くまで距離を詰めた。

 だが、結界の破壊に時間がかかり、後ろから妖怪に襲われ敗北してしまった。


 これは陰陽師見習いには難しいな。

 難関試験と言われるのも納得である。

 陰陽師は死と隣合わせの職である以上、実力が足りない者はならない方が幸せとも言える。


「受験番号・九八六六番、結界内に」


 ようやく俺の番がやってきたようだ。

 俺は試験会場である結界内に入る。

 既に多くの妖怪がこちらを睨みつけている。

 頭が高いな。下級妖怪風情が。


「試験時間は十五分。調伏された妖怪達だが、大怪我をする者は毎年出る。危険を感じた場合はすぐさま棄権するように。それでは試験を開始する!」


 試験開始と同時に、俺は護符を持つ。


火行かぎょう・鬼火」


 通常の鬼火は小さい火の玉が一つ生まれるだけだ。 

 だが、陰陽術の威力は使用する護符と使用者の霊力に依存する。

 ならば一流の陰陽師が放つ鬼火はどれほどのものなのか。


 護符から生み出されたのは小さな太陽かと思わせるほどの巨大な火の玉だった。

 直径十メートルを優に超える小太陽が前方に弾丸のように放たれる。そして前方にいた妖怪達の一瞬で溶かし、それは地面に当たり、爆ぜる。その威力は爆発の余波だけで、水晶の結界だけでなく、会場となっている大きな結界を粉々に粉砕した。


 だが、その中でも水晶だけは壊れることなく、その場に残っていた。


 水晶だけ、俺が自分の結界で覆ったからだ。

 俺は転がった水晶を拾い上げる。

 包み込む結界を生成していた陰陽師達も皆、呆然としていた。

 何が起こったのか、理解できないと言わんばかりに。


「合格時間は?」


「えっ……? あ、ああ。受験番号九八六六番、合格。合格時間は……三秒」


 最後は絞り出すように言った。


「鬼火? 今のはどう見ても鬼火のサイズじゃなかったぞ?」


「二級妖怪ですら、一撃で溶かしそうな威力だった」


「そもそもなんでフロア自体には傷がないんだ? 大穴が空いてもおかしくない」


 その答えは、フロアが傷つかないようにあらかじめ俺が自分の結界で、試験会場となる結界を覆ったからだ。

 余計な難癖はつけられないに越したことはない。

 俺は再びあのデブが現れる前に静かに会場を去った。






 その夜、陰陽師試験の公式HP上に合格者の番号と、合格時間が掲載された。


一位:九八六六  三秒

二位:四七七二  一分十八秒

三位:四七七三  一分二十五秒

四位:一四六二三 一分二十七秒

五位:三四六一  二分十一秒


 それ以降も五百十一位まで合格時間が並んでいる。

 俺の自室の襖が突然開く。


「道弥! お前、一位じゃないか!」


 父が嬉しそうな顔でやって来た。


「当然」


「しかも三秒なんて……。本当にお前は……凄い子だ!」


 そう言って熱い抱擁を受ける。

 ここまでテンションが上がっている父は珍しい。どうやらよほど嬉しいらしい。


「この成績なら上位組も狙える。芦屋家から上位組なんて出たことがないぞ」


 とそわそわしている。


「任せて、父さん。すぐに誰も芦屋家を馬鹿にできないようになるから」


 俺はそう言って笑った。

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