第40話 呪を刻む
会場全体に大きなブザー音が鳴り響く。
『それでは只今から二次試験の説明を行います。各自東展示場の一から三フロアに移動するように。そちらで追加の説明を行います』
なんの説明もないのか。
受験番号に合わせて、各フロアに移動させられるようで、俺はアナウンスに従い東展示場の第二フロアへ向かった。
フロアに入る前に荷物を全て回収される。鞄一つ持ち込めない厳重なチェックである。
縦横九十メートルの巨大なフロアに机と椅子が均一に並べられている。
机の上には、和紙が五枚、毛筆、朱墨、木箱が置かれている。
皆が席に着いた頃、再びブザー音が鳴り響く。
『只今から二次試験を開始いたします。今から皆様には護符の生成を行っていただきます。和紙は五枚。五枚までなら何枚でも構いません。生成時間は二時間。その後、別フロアにて護符を使用した戦闘試験を開始します』
アナウンスの後、会場の前方に立っていた試験官が口を開く。
「それでは試験を開始する」
その言葉を皮切りに、皆が毛筆を持ち、二次試験が開始された。
皆、真剣に護符の生成を行っている中、俺は今後の戦闘試験について考える。
正直、五級程度の試験だと別に護符など必要ないだろうが……既に目をつけられてそうだからな。
一般的に護符一枚の生成には三十分から一時間程度かかる。受験生は時間をかけて少数の護符を生成するか、質を落としてでも数を重視するか選択することを求められる。
別フロアにはおそらく二千人の現役陰陽師が待機している。
陰陽師が調伏した妖怪達との戦闘が予想できた。
俺は精神を集中すると筆を手に取る。
全てを受け止めて、守り切る。
そうイメージし、俺は和紙に丁寧に呪を刻む。筆を通じて俺の霊力が和紙に籠っていく。
最後まで呪を刻まれた和紙は、霊力により淡く輝いていた。
これなら真や莉世の攻撃でも少しは防げるな。
『素晴らしい出来ですな。神社に奉納される守護護符よりよほど強い気を感じます』
『前世では帝にも奉納していた物だからな。素材は違えど』
俺はその後四枚ともに呪を刻み、五十分程度で五枚の護符を完成させた。
終わったが……変なことで目立つのも御免だ。目出つのは結果で。
そう考えた俺はおとなしく時間が来るのを待った。
『それでは護符生成を終了します。受験生は作成した護符を木箱に入れ、お待ちください。呼ばれた受験生は木箱を持ち第五フロアに移動してください。それでは受験番号六七六九番、第五フロアに』
番号を呼ばれた受験生は、木箱を持ちフロアを出ていく。
『戦闘試験は室内で行います。妖怪が蔓延る室内にある水晶を取れば合格です。水晶には結界が張られているため、結界を解除または破壊してください。室内の妖怪は祓っても、祓わなくても構いません。作成した護符と調伏している式神は使用しても構いません。ただし、陰陽術は護符を使用した術のみ使用可能とします。制限時間は十五分。二次試験合格上位者には最終試験にてボーナスが入りますので真剣に取り組むように』
とアナウンスが入る。
「妖怪を祓わなくていいのなら、楽勝じゃないか?」
「結界さえ解除できればいいなら、すぐだろう!」
と受験生の一部が声を上げる。
だが、俺の考えは違う。
結界の解除は繊細さが求められる。妖怪に襲われるという状況下で、いつも通り結界を解除できるものはごく一部だろう。
すなわち、結局妖怪を祓う必要がある。
それか圧倒的な力で、結界を破壊するか。
ここで結構減りそうだな。俺は試験の難易度に少し驚いた。
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