第39話 何も知らない
ん? 宝華院?
こいつら、この間陰陽師TVで見た宝華院家の双子か!
俺はすべてがつながったような感覚で満たされる。
「宝華院さんなんて、よそよそしい。俺のことは渚って呼んでよ。僕達はこれから同期なんだからさ」
笑顔の兄とは対照的に、弟の方は吊り上がった目に金髪でこちらを睨みつけている。
「誰だ、お前? 見たことねえな」
「芦屋道弥だ」
俺は端的にそう答えた。
別に去っても良いのだが、夜月がこちらをちらちらとみてくる。どうやらこいつらと一緒に居たくないことが伝わってくる。
俺の言葉を聞いた弟は下卑た笑みを浮かべる。
「芦屋ァ!? まだあったのかよ、芦屋家。もうとっくに廃業してたかと思ったぜ。そんな弱小一族が陰陽師試験受かるのか? そもそも、なぜ芦屋の男と夜月が居るんだ? 滑稽だなあ、お前は。とっとと失せろ。お前のような雑魚が俺達と関われると思っちゃいけねえ」
「なぜ俺が夜月といたらおかしいんだ?」
芦屋家だからと言って、陰陽師の一族と関わることすら許されないというのか?
「お前がなぜ滑稽かって? 何も知らねえ間抜けだからさ! だって――」
「おい、私の友人に失礼だろう!」
夜月の怒声が弟の声を遮る。
それに反応したのは兄である渚だった。
「友人は選んだ方がいい」
俺と変わらぬ年齢の子供ですらここまでの差別意識。
芦屋家への差別は相当根深いらしい。
「お前ら、名前ばっかり有名になって、中身が伴ってないんじゃないか?」
俺は嘲るように言う。
「はあ? 言うじゃねえか、芦屋家風情が」
「試験で証明してやる。どっちが上か、はすぐに分かる。夜月行くぞ」
「ああ!」
俺はそう言い放つと、その場を去った。
夜月もその場から離れたかったのか、すぐさま走って俺の後を追ってきた。
先ほどまで笑顔だった兄、渚は笑みを失い小さく呟く。
「あんな男のどこがいいんだか」
一方、弟である陸はその兄を見つめている。
(怒ってるなあ。兄貴、夜月のこと好きだからな。あんな女のどこがいいんだか。だが夜月の野郎、おそらく自分の家のことを隠してやがるな)
「ハハ、本当に笑わせるぜ。最終成績トップ五(ファイブ)は氏名公表なのによお」
陸は、面白いおもちゃを見つけた子供のように笑う。
陰陽師試験の成績上位者は氏名を公表される。これは一族の凄さを見せつけるためだ。
家同士の争いが多い界隈であるため、自分の一族が試験通過者のトップになることは育成成功を他家に示すことができる少ない機会だ。
同時に最終試験成績上位五人は、通常の五級陰陽師ではなく四級陰陽師から始めることが許される。
別名上位組とも言われるトップ五には大きな価値がある。
陸ももちろんその座を狙っていた。
(夜月もトップ五を狙うには邪魔だ。消えてもらうか)
「陸、夜月にはあんな男は相応しくない。そうだろう?」
「ああ。その通りだ」
真剣な声色の渚とは異なり、陸は薄笑いを浮かべていた。
それぞれの思惑は絡み合い、二次試験は始まる。
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